「讃岐うどん 茶ぶ釜」
福岡市中央区大濠公園3の2
11:30~14:30。土日は夜(17:00~20:00)も営業。火曜、第1月曜定休
◎牡蠣の味噌クリームうどん 930円 ◎かけうどん 430円
黒い大皿には牡蠣が載り、赤大根などの野菜が周りを彩る。ベースはクリームソースで、香味バターも添えられている。ここまで聞くと洋食を想像するかもしれないが、れっきとした〝うどん〟である。
『讃岐うどん 茶ぶ釜』の冬限定「牡蠣の味噌クリームうどん」。まずはスープを一口すすった。クリームソースの濃厚さの中に和だしの風味が顔を出す。ぷにゅっと引きがある麺の食感はパスタとは違うし、表面がくっきりとしているためソースとの絡みもいい。「うどんって何でも合うんですよ」。そう話す店主、岩村定徳さん(39)の料理人としての出発はやはり洋食だった。
大学時代、洋食店でバイトし、楽しさに目覚めた。卒業後は専門学校で学び直し、福岡市で洋食店を展開する会社に就職。最初はイタリアン、その後はフランス人シェフのもとでフレンチの修業を積んだ。
順調かと思われたが28歳で畑違いのうどんの世界に飛びこむことになる。理由の一つは勤務先のフレンチレストランが店をたたんだこと。また、自身がアレルギー体質で油の多い洋食を食べていたためか体調を崩しがちだったことも影響した。そして何より背中を押したのが当時の讃岐うどんブームだった。
行動は早い。雑誌を片手に香川でうどんを食べ歩いた。東京での讃岐ブームを牽引した「東京麺通団」をその雑誌で知ると、店の門を叩いた。「苦労したけどおもしろかった」。計3軒のうどん店で腕を磨いた。
「洋食の経験を生かしたい」。2014年に独立した際、そう考えて提供したのがフレンチの冷製スープベースの「ビシソワーズうどん」だった。予想以上の反響に、夏はビシソワーズ、冬は牡蠣の味噌クリームを出すのが定番化した。「讃岐なのでかしわ天ぶっかけ、釜玉もお薦めですよ」と笑うが、注文の約半数は創作うどんだという。
昨年体調を崩し、約1年間休業した。今年6月に復活してからは創作メニューの幅を広げている。パクチー冷かけ、茄子の揚げ浸し冷やおろし。きのこフロマージュ、香味野菜のきつねうどん…。「今でも創作麺のことを考えている。結構ボツもあるんです」と話す。
ごぼう天に肉うどん。定番メニューを求めてうどん店に行くのも勿論いい。他方、新しい何かが待っている店もまたそれで楽しい。
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者として文芸取材を担当。
麺好きが高じて「ラーメン記者、九州をすする!」を出版。