「五島軒」
福岡市中央区荒戸3-4-20 11:30~14:30 不定休
◎あごだしラーメン580円 ◎あごだしうどん580円
ラーメンを食べる時、スープからすすることが多い。味覚が鋭い最初の一口は、麺よりスープを味わいたい。そんな思いからだろうか。ただ『五島軒』の一杯を前にするといつも迷ってしまう。早く麺をすくい上げ、口に運びたくなるのだ。
見た目は、つややかな中太縮れ麺で全粒粉が練り込まれている。加水率が高く、口に入れるとつるっとした舌触り。それでいて噛み込んだ時のぷるんとした歯応えが心地いい。全粒粉の風味をまとう麺と、焼きあごだしの滋味スープとのバランスも絶妙だ。
「ここで作ってるんですよ」。店主の溜大志さん(58)は店の隅に置かれていた年代物の製麺機を見せてくれた。ラーメン専用の福岡県産小麦粉「ラー麦」を使う。かん水などと混ぜた後、こねて、踏んで、たたんで、寝せてを3、4回繰り返す。最後は製麺機で延ばして切る。仕上がりまで夏場で6時間、冬場は1日。かなりのこだわり、重労働だが、溜さんは「もともとはスパゲティなんですけどね」と笑う。
そのルーツは38歳の頃に開いた喫茶店にあった。溜さんは、長崎・五島列島北端にある宇久島の出身。地元の高校を卒業し、福岡市の海産物問屋などで働いた後、長浜鮮魚市場そばで喫茶『ハロー』を開いた。ハンバーグなどを出す洋食喫茶。7年ほどたった頃、次のような思いが芽生えた。「故郷とつながりがあるメニューを出したい」。
考案したのが、名産の五島うどんによく合わせられるあごだしスープと、青菜、ベーコンで作るスパゲティだった。評判は上々。もともとラーメン好きでもあり、試しに中華麺を入れてもおいしかった。「長浜近辺は豚骨ばかり。あごだしラーメンがあってもいいはず」と心動かされた溜さん。平成20年、思いを実行に移し、五島軒をオープンさせた。
開業後も改良を重ねた。うま味調味料、動物系のだしは使わない。あごだしだけではパンチがないので、煮干し、鰹節なども加え、ニンニク、ネギを炒めた香味油をアクセントにした。5年かけてスープができると次は自家製麺に挑戦した。オークションで製麺機を購入。材料、分量と試行錯誤を繰り返した。
「まずはスープありき。それに合う麺を探究し、最近ようやく納得できるものにたどり着いたんです」。最初は麺なのか、スープなのか。溜さんの言葉を聞くにつけ、迷いは一層深まるばかりだ。
絶品麺を生み出す製麺機を前にする溜大志さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「川上政行 朝からしゃべりずき!」内コーナーで毎月第1月曜にラーメンを語っている。