「手打ちうどん 円清」
福岡市中央区舞鶴2-7-1
11:00~14:30(土日祝は11:30~15:00)、17:30~20:30 月曜定休
◎ざるうどん550円 ◎肉汁ざるうどん700円
武蔵野うどんをご存知だろうか。ゴリゴリとコシの強い手打ち麺を肉つけ汁などに浸して食べる、埼玉や東京・多摩地区に伝わる郷土麺だ。4月に開店した『手打ちうどん円清』の店主、岩坂隆玄さん(44)は、埼玉でうどん屋を営んでいた。しかも「肉汁ざるうどん」などいかにもなメニューが並ぶ。当然、武蔵野うどんの店と思っていたのだが…。
麺は艷やかな見た目。箸で持ち上げるとどこまでも長い。70~80センチはあろうかという麺をつけ汁に浸し、再び持ち上げて口に運ぶ。噛むとぷにゅっとしたコシがあるが、口触りはあくまで滑らかだ。武蔵野うどんを男性的とするならば女性的とでも言おうか。甘さを抑えたきりりとした味わいのつけ汁はイリコだしが前面に出る。節、昆布は使ってないというのもうなずけた。
「福岡にないタイプだから」。岩坂さんは出店理由を語る。福岡で飲食店を経営する知人から移転話を持ちかけられ、昨年末をもって埼玉県飯能市の『如水』をたたんだ。売れてないどころか繁盛店だった。それをなげうっての挑戦に「安定が嫌なんでしょうか」と言う。確かに安定を拒むかのように麺人生を切り拓いていた。
30歳までは会社員だった。営業回りでラーメンにはまって脱サラし、未知の世界に飛びこんだ。最初はチェーン店。その後、埼玉にある「あぢとみ食堂」に移った。煮干しだしをメーンにした和風ラーメンが人気の店で修行中、今度は香川県で食べた讃岐うどんにはまってしまう。「麺の多彩さがすごかった。戻ると師匠に『ラーメンじゃなくてうどんやります』と宣言しました」と笑う。
香川で3年間学んだ後の平成21年、埼玉県狭山市で『如水』を開業した。麺は自分好みの滑らかさを追求し、つけ汁のベースはラーメン店で学んだイリコだしにした。武蔵野うどんのスタイルを踏襲しつつ、違うものに仕上がった理由はそこにある。3年後、飯能に移転する頃には地域外からも集客する人気店となった。ただ、それは同時に安定を意味していた。
九州との縁は九州産小麦を使っていたことくらい。福岡に移ってからは醤油を地元産にし、麺も少しだけ柔らかめにした。福岡は温かいスメの文化で、つけ汁に戸惑う人も多い。違いを実感しつつ、楽しんでもいる。
埼玉時代、手打ち麺を使ったラーメンを限定で提供し、人気を博していた。ラーメン好きとしては期待が膨らむが、「まずはうどん」と出す予定はない。ただ、安定嫌いの岩坂さんのこと。いずれ食べられるだろうと勝手な期待も寄せている。
ヘビメタと歴史好きの岩坂店主。
店名は黒田官兵衛が名乗った「如水円清」にちなむ
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「川上政行 朝からしゃべりずき!」内コーナーで毎月第1月曜にラーメンを語っている。