
ノギ中華そば店
長崎市銅座町 3-28
午前10時~売り切れ(最終は午後2時)まで 火曜と金曜定休
中華そば(塩・醤油)700円。写真は塩中華そばに味玉(150円)をトッピング
思わず行ってしまい、食べてしまう。そんな店は、僕の中での「良い店の条件」の一つである。長崎市にある「ノギ中華そば店」もそうだ。
別の用事で長崎に赴いたにもかかわらず、気付けば、足が向いてしまっていることが多い。ホテルの朝食を抜いて来たこともある。別の店で昼ご飯を食べることが決まっているのに、その前にここの一杯をすすったこともある。今回の取材はある休日の朝。開店(午前10時)からほどなくして訪れたにもかかわらず、すでに行列ができていた。
リストに名前を書き、15分ほど待って入店。メインメニューの中華そばは、醤油と塩の2種類。両方の食券を購入した。
醤油は見た目から関東風。濃い色のスープはコク深さがあり、うまみがダイレクトに伝わってくる。鶏、豚骨で取った動物系スープを支えるのは煮干しなどの魚介だし。化学調味料は一切使っていないというが、力強さは十分だ。一方、塩はより動物系の味を強く感じる。それでいてだしのうまみ、塩味はくっきり。共通するチャーシューは、燻香豊かで美味。ザクっと歯切れのよい自家製麺もまた秀逸だった。食べている間も次々と客が訪れ、列は伸びていく。
店主の今田匠(たくみ)さん(43)は、1人で接客から調理、配膳までこなし、行列に目配りもする。2022年12月オープンの新店とは思えないのは、今田さんの経歴にある。彼は東京でも活躍したラーメン職人なのだ。

1人で店を切り盛りする今田匠さん
もとは長崎市でサラリーマンをしていた。ラーメンに目覚めたのは20歳代の中頃。福岡出張が多く、そのたびにラーメンを食べた。さらにのめり込み、休みの日は関東、関西まで遠征した。それでも飽き足らず、自作のラーメンに手を出す。ここまで来ると、行き着くところは決まっている。
「店をやりたくなりまして…」
31歳の時、当時好きだった豚骨と魚介のスープを混ぜたラーメンの味を求め、仕事を辞めて東京に出た。最初の修業先は、つけ麺を広めた山岸一雄さんの弟子が展開するグループで、魚介豚骨のつけ麺を出した。2014年に会社の独立制度を利用して仲間と「麺処今川」をオープンした。そこでは淡麗鶏がらラーメンを提供した。
今田さんの名を知らしめたのは、2017年に創業した東京・中野の「かしわぎ」だ。白濁スープにひき肉を加えることで濁りを取り除く「掃湯(サオタン)」の手法を使った透明感ある「豚清湯」がラーメン通をうならせた。
「長崎で開業するのが最初からの目標でした」と今田さん。かしわぎを2年で知人に譲り、地元に戻って準備を進めた。かしわぎ時代と違い、豚は抑えめ、鶏を前面に出す。呼び戻しの手法も使い、雑味をあえて残すために清湯は封印した。
普通は成功を収めると、そこにしがみつくものだが、今田さんは違う。既に中華そばの人気店になったが、夏(7月中旬~9月末頃)は、ざる中華(つけ麺スタイル)の専門店に衣替えをするそうだ。
よりおいしく、より幅広く。縦横に変わることをいとわない。今田さんの姿勢を見ていると、やはり思わず行き、食べたくなる。

文・写真小川祥平
1977年生まれ。記者、編集者。3月に新刊「ラーメン記者 九州をすする!替え玉編」を刊行。「CROSS FM URBAN DUSK」内で月1回、ラーメンと音楽を語っている。
X(旧ツイッター)は@figment2K