「まるごっちん」
福岡市中央区平尾2-19-24
11:30〜15:00 日曜定休
◎中華そば(醤油、味噌)700円 ◎鶏塩そば800円
二毛作営業という言葉をご存じだろうか。昼と夜、もしくは曜日によって営業形態やメニューを変える飲食店を指し、近頃増えつつある業態だ。福岡・平尾の『クロスローズ』もそう。平成15年にオープンした洋風居酒屋は、昼は『まるごっちん』と屋号を変え、ラーメンを提供している。決して片手間ではない一杯には、意外な誕生秘話もあった。
店内はテーブル席中心のいわゆる居酒屋。カウンターに腰掛け、さっそく看板メニューの中華そばをいただいた。鶏がらメーンのスープに小松菜、チャーシュー、煮玉子が載る。見た目から「丁寧に作っている」という感じ。だしはじんわり、醤油ダレも甘ったるくない。しみじみとした旨さゆえ、個々の具材も存分に味わえるのもまた楽しい。
オーナーの後藤昌彦さん(60)によると、二毛作営業を模索し始めたのは昨年夏頃、メニューとしては東京の老舗で食べられるような中華そばを思い描いた。というのも後藤さんはロックバンド「アクシデンツ」で活躍した元ギタリストで、東京生活も長かったのだ。ラーメン作りは、和洋中と料理人として幅広いキャリアを持つ弟、昌樹さん(55)に任せた。ただ弟は兄とは違う一杯を思い浮かべていた。
2人の父、昌廣さん(故人)はかつて長住でラーメン店を営んでいた。昭和48年、知人にラーメンを習って『どんぶり亭』をオープンし、10年間、営業を続けた。子どもの頃から料理に興味があった昌樹さんは厨房での父親の姿を見て育っている。「父の醤油ラーメンがすごく好きだった。寸胴の蓋を開けて中身を見たことがあって材料も覚えていた」と振り返る。しかし、どんぶり亭が提供していたのは札幌ラーメン。いかに優しくし、中華そばに寄せていくのか。それが昌樹さんにとっての挑戦だった。
鶏がら、豚骨の炊き方、野菜の量、スープを寝かせて、なじませる時間…。試行錯誤を繰り返した。父親が使っていた麺にもたどり着き、その味を再現した。とはいえラーメンは初めての経験で一筋縄ではいかないことも多い。元だれの量の少しの違いで味が変わり、湯切りの回数で温度、水分量も違ってくる。「微妙なところが味を左右する。難しい」。そう語る昌樹さん。厨房で寡黙に、丁寧に作業する姿が印象的だ。昌彦さんは「出口の見えない迷路に落とし込んで申し訳ない」としつつ、「理想を超えたものを作ってくれている」と感謝する。
9月に昼営業を開始して以降、味噌、鶏塩そばも完成させた。醤油、味噌、塩の3種があったどんぶり亭と同じラインアップになった。居酒屋だけの時は近場の客が中心だったが、今は遠くから食べに来る人も多い。ラーメンの吸引力を今、実感している。
店内の様子
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「川上政行 朝からしゃべりずき!」内コーナーで毎月第1月曜にラーメンを語っている。