「博多川端どさんこ」
福岡市博多区上川端町4-229
11:15~19:55 定休日は火曜
◎特製みそラーメン650円/煮卵100円/半チャーハン300円
福岡の老舗ラーメン屋といえば普通は豚骨だろう。ただ例外もある。その一つが『博多川端どさんこ』だ。上川端商店街で開店して半世紀近く。店名が示すように北海道発祥の味を提供し、看板メニューはみそラーメンである。
店に入ると店主の岩永太郎さん(47)がリズムよく中華鍋を振っていた。客の多くが頼むのは特製みそラーメンと半チャーハンでともに鍋は欠かせない。「社長業は好きじゃないんですよ」。岩永さんは今でもほとんどの時間を厨房で過ごす。
創業は昭和45年。岩永さんの親戚が、岩永さんの父倫夫さん(故人)を誘って始めた。親戚は「ちんめん」で知られる福岡・天神の『あま太郎』を経営していた。当時は東京・両国に『どさん子』がオープンし、急速にチェーン展開するなど関東でみそラーメンブームが起こっていた。「福岡でも」との目論見があったのだろう。が、うまくいかなかったようだ。親戚は店を手放し、店長だった倫夫さんが引き継ぐことになった。
潮目が変わったのは昭和50年に山陽新幹線が博多まで延伸してから。まだ豚骨ラーメンの認知度がない時代に出張などで福岡に来た関東、関西の人たちがこぞってやってくるようになった。「小学校高学年になる頃にはかなり売れていましたよ」。当時の店舗2階に住んでいた岩永さんはそう回想する。
中、高、大学と店の手伝いもしたが、大学を卒業するとアパレル関係の会社に就職し、独自の道を歩んでいた。ところが東京に住んでいた30歳の頃、母親から電話があった。「お父さんががんになった」。未練もあったが、脱サラを決意した。
一緒に働けたのは1年ほどだった。その間、直接教えてもらったことはない。ただ、父親が残した言葉は今も覚えている。「同じ味と思ってもらうためにはこっちが変わらないといけんぞ」。倫夫さん自身、札幌寄りだった開店時の味を変化させていた。岩永さんも2代目としてみそを変えるなど変革を続けている。
岩永さんが鍋を振って作ってくれた特製みそラーメンを頂く。鶏、豚のだしに支えられたスープは若干甘めの口当たりだ。札幌の味が剛なら、こちらは柔だろうか。麺を持ち上げ、具材と一緒に口に運ぶ。炒めた挽肉の風味、シャキッとしたもやし、そして中太の縮れ麺の相性がこれまたいい。
本店は昼時にいつも行列ができる人気ぶり。さらに3年前にはJR博多駅にも進出した。観光客が多い場所柄で、ほとんどが豚骨を求める。みそであることに助けられた昔と違って当初は苦戦した。しかし、徐々に客が増えて、今は軌道に乗っている。
「週に3、4回きてくれる方もいる。お客さんに支えてもらって今がある」と岩永さん。人々を惹きつける看板メニューは紛れもなく「博多の味」なのだ。
チャーハンを作る岩永太郎さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「川上政行 朝からしゃべりずき!」内コーナーで毎月第1月曜にラーメンを語っている。