「鶏専門 麺屋蓮々」
福岡市博多区吉塚本町4-12
11:00~15:00、17:30~21:00 火曜定休
鶏塩ラーメン600円、豚骨ラーメン600円
JR吉塚駅近くの「鶏専門麺屋蓮々」は3月11日に宗像市から移ってきた。移転前は、豚骨と鶏がら二本柱の人気店だったが、新しい物件が「においの出る豚骨はダメ」とのことで鶏がらラーメン専門店にした。
3月下旬だったろうか、私も訪れて看板メニューとなった鶏塩ラーメンを食べた。あっさりとした透明感あふれる鶏だしスープ。スルっと口に収まる細麺がよく合う素晴らしい一杯だった。
店主の加治屋丈広さん(52)に聞くと、本音では豚骨も続けたかったという。それでも「この立地が気に入ったし、自分の鶏がらラーメンに自信があったから」と新しい挑戦を選んだ。その言葉通り、オープン直後は「とにかく売れましたよ」。豚骨を捨てる決心をつけたはずだった。
チャーシューを仕込む加治屋丈広さん
振り返れば、ラーメン人生の始まりは豚骨だった。35歳でラーメンの世界に飛び込んだ。修業先は豚骨の老舗ばかり。「元祖赤のれん節ちゃんラーメン野間店」で2年。「だるまラーメン」には7年いた。2012年、奥さんの地元である宗像で「博多豚骨麺屋蓮々」を開いた。
経営は順調で、早々と常連客に恵まれた。最初は豚骨のみだったが、鶏がらにも挑戦して人気メニューになった。
移転を考えたのは独立して6年が過ぎた頃、生まれ育った福岡市で勝負したい気持ちが高まった。探し回った末に見つけたのが今の物件。駅近で交通量も多い。一人で回せるコンパクトさもぴったりだった。
「博多豚骨」から「鶏専門」に屋号を変えて最高のスタートを切った、かにみえた。コロナで状況は一変。4月に入っての緊急事態宣言のインパクトは容赦なかった。
売り上げは激減。途方にくれていたところ、大家から声をかけられた。
「厳しいでしょ。昔豚骨やっていたのならやってもいいですよ」
家賃交渉を考えていたほど追い詰められていた加治屋さんにとって願ってもない言葉だった。
さっそく豚骨をメニューに加えた。宗像には豚骨用コンロが3つあったが、新店舗には1つ。濃度の調整など以前と同じようにできないもどかしさはあるものの、手応えも感じている。
「宗像から豚骨を食べに来てくれた方もいて売り上げも上がった。鶏がメーンだけれど、豚骨が出せるのはありがたい」。
復活した一杯。白濁スープは野性味をほのかに残しつつ、ふんわりとだしが広がるタイプ。少し歯ごたえを残した細麺がまた良くて箸が止まらない。
コロナ禍の社会では、人と人との距離が要求される。たとえそうであっても、人と人とが交わす心のやりとりで世界は成り立っている。最後の一滴を飲み干しながらそう思った。
文・写真小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社くらし文化部。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。