①②2018年の公演『かっぱ』より。木野下さんがかっぱ役
③これまで公演した舞台のパンフレット。みんなシニアなので、セリフを覚えることに苦労も
④団員が書いた脚本。脚本や小道具、衣装なども意見を出し合い作り上げている
■若い頃に挑戦していた演技の世界に再び挑む
20代のころ、東京の俳優養成所に所属していた木野下さん。京都・南座の舞台に立つなど活躍していたものの、「この道で食べていけるのか自信がなくて。悩みに悩んで地元の福岡に帰ってきました」と当時を振り返る。帰郷した福岡で、芝居とは無縁の生活を送る木野下さんに転機は突然やってきた。
「務めていた会社の教育用ビデオに出演することになりました。27、8年ぶりの演技で緊張しましたね。でも、楽しかった」
しばらく経ったある日、教育用ビデオを手掛けた芸能事務所から連絡が届く。
「シニア劇団を立ち上げるから参加しないかというお誘いでした。本格的な劇団ではなく、シニア劇団ということでしたので、それなら…とお受けしました」
■今だからこそ芝居を純粋に楽しめる
劇団の活動が始まったものの、木野下さん以外は全員演技未経験。加えて、みんな“シニア”だ。
「最初はみんな体の動きも悪いし、滑舌も悪い(笑)。でも稽古や公演を重ねるごとに、意識が変わって、自主性をもって芝居に向き合うようになりました。それに、年の功で肝が据わっているから、本番でセリフが飛んでもあわてない。周りがフォローしてくれますしね。打ち上げの笑い話が増えるくらいの感覚です」とにっこり。
劇団員同士の仲の良さも、芝居を続けられている理由のひとつ。
「団員の一人が家族の看病でしばらく参加出来ないことがありました。でも、大変な中、彼女は公演当日に駆けつけて、準備を手伝ってくれました。最後のカーテンコールでは別の団員が客席の彼女を呼び寄せて…。胸が熱くなりましたね」と思わず涙ぐむ。一つのものを一緒に作り上げていく仲間同士の絆。それは大人世代では、なかなか得られない貴重なものだ。
「今、お芝居をすることが好きだとあらためて感じています。若い頃は夢や理想を追いかけて、現実とのギャップに胸を痛めたり、プライドや売れたいという気持ちが自分を苦しめていました。でも今はそれを通り越して、純粋にお芝居が楽しいです」
【陶芸】佐藤すみえさん
①②息子さんからリクエストされた酒器を製作中の佐藤さん
③④佐藤さんが作った器の数々とアクセサリー。最近はアクセサリーをプレゼントすることも多いそう
■土に触れる喜びと無になれる大切な時間
15年ほど前から陶芸を始めたという佐藤さん。もともと器が好きだった彼女は、知人のご主人が秋月で開いていた小石原焼の陶芸教室に通い始める。
「教室はとても自由な雰囲気でした。窯入れのときは、みんなと一緒に泊りがけで薪を入れたり、作業をするのも楽しかったですね」
しばらくの後、秋月の教室を辞め、比較的自宅に近い教室へと移る。