自宅に閉じこもりがちなこんな今だからこそ、ちょっと先の楽しい未来に思いを馳せませんか?
今回はお稽古を通して輝く三人の女性にお話を伺いました。
「さわぎが落ち着いたら、こんなお稽古をしよう!」「こんなことが出来るようになったら楽しそう」とワクワク考えるヒントにどうぞ。
【ドラム】吉木いづみさん
①ドラムを叩く吉木さん。いつものエレガントなイメージとは対照的にロックでかっこいい
②発表会の様子。バンドのメンバーと一緒に演奏
③練習中の曲はクイーンのヒット曲
④自身のピアノ教室の発表会でピアノ演奏。ドラムを叩くのはドラム教室の先生、ヴィオラは義弟さん
■「自分のために何かを」とドラムに挑戦
ピアノとエレクトーンの講師である吉木さん。5年前に両親を見送った後、自分のために何かしたいと感じた吉木さんはドラムを習い始める。楽器という共通点はあるものの、それまでに経験があった鍵盤楽器との違いは大きい。
「若いころエレクトーンの演奏用にパーカッションのデータを打ち込んでいたので、元々打楽器に興味があったんです」と吉木さん。偶然にもその頃、ドラム教室の体験レッスンを受ける機会があり、そのまま教室に通うことに。
「ドラムの楽譜に慣れるのが大変でした。ピアノやエレクトーンの楽譜とは全然違うんです。五線譜ということは同じですが、ドラム譜が表しているのはリズムと、ドラムセットの中のどのパーツを叩くのかということ。例えば、一番下の音符は右足でバスドラムを叩くことを指しています。でも、エレクトーンでは一番下の音符は左足を使うので反射的に左足が動いてしまう。それに、譜面を音名で読むことが脳に刻み込まれているので、頭の中で変換するのに苦労しました」
■ドラムを通じて感じる喜びと達成感
習い始めてから5年、今は発表会や地域のイベントに参加するのが楽しいという。
「ピアノもエレクトーンも一人で成り立つ楽器ですが、ドラムはバンドのメンバーと一つのものを作り上げていくもの。それゆえの楽しさや、難しさがありますね。それにバンドの方たちはプロのミュージシャンなので、音楽的に勉強になることが沢山あります」
これまでクイーンやビートルズ、ワンオクロックなどの曲をステージで演奏してきた吉木さんはこう続ける。
「今までCDで聴いていた好きな曲を叩けるなんて、命がイキイキしてくる感じがします。発表会前には練習もいつも以上に頑張るので、達成感もあるんですよ」
これからも出会ったことがない音楽と接したい、と顔をほころばせる彼女の音楽人生は、まだまだ広がり続ける。
【芝居】木野下もこさん
①②2018年の公演『かっぱ』より。木野下さんがかっぱ役
③これまで公演した舞台のパンフレット。みんなシニアなので、セリフを覚えることに苦労も
④団員が書いた脚本。脚本や小道具、衣装なども意見を出し合い作り上げている
■若い頃に挑戦していた演技の世界に再び挑む
20代のころ、東京の俳優養成所に所属していた木野下さん。京都・南座の舞台に立つなど活躍していたものの、「この道で食べていけるのか自信がなくて。悩みに悩んで地元の福岡に帰ってきました」と当時を振り返る。帰郷した福岡で、芝居とは無縁の生活を送る木野下さんに転機は突然やってきた。
「務めていた会社の教育用ビデオに出演することになりました。27、8年ぶりの演技で緊張しましたね。でも、楽しかった」
しばらく経ったある日、教育用ビデオを手掛けた芸能事務所から連絡が届く。
「シニア劇団を立ち上げるから参加しないかというお誘いでした。本格的な劇団ではなく、シニア劇団ということでしたので、それなら…とお受けしました」
■今だからこそ芝居を純粋に楽しめる
劇団の活動が始まったものの、木野下さん以外は全員演技未経験。加えて、みんな“シニア”だ。
「最初はみんな体の動きも悪いし、滑舌も悪い(笑)。でも稽古や公演を重ねるごとに、意識が変わって、自主性をもって芝居に向き合うようになりました。それに、年の功で肝が据わっているから、本番でセリフが飛んでもあわてない。周りがフォローしてくれますしね。打ち上げの笑い話が増えるくらいの感覚です」とにっこり。
劇団員同士の仲の良さも、芝居を続けられている理由のひとつ。
「団員の一人が家族の看病でしばらく参加出来ないことがありました。でも、大変な中、彼女は公演当日に駆けつけて、準備を手伝ってくれました。最後のカーテンコールでは別の団員が客席の彼女を呼び寄せて…。胸が熱くなりましたね」と思わず涙ぐむ。一つのものを一緒に作り上げていく仲間同士の絆。それは大人世代では、なかなか得られない貴重なものだ。
「今、お芝居をすることが好きだとあらためて感じています。若い頃は夢や理想を追いかけて、現実とのギャップに胸を痛めたり、プライドや売れたいという気持ちが自分を苦しめていました。でも今はそれを通り越して、純粋にお芝居が楽しいです」
【陶芸】佐藤すみえさん
①②息子さんからリクエストされた酒器を製作中の佐藤さん
③④佐藤さんが作った器の数々とアクセサリー。最近はアクセサリーをプレゼントすることも多いそう
■土に触れる喜びと無になれる大切な時間
15年ほど前から陶芸を始めたという佐藤さん。もともと器が好きだった彼女は、知人のご主人が秋月で開いていた小石原焼の陶芸教室に通い始める。
「教室はとても自由な雰囲気でした。窯入れのときは、みんなと一緒に泊りがけで薪を入れたり、作業をするのも楽しかったですね」
しばらくの後、秋月の教室を辞め、比較的自宅に近い教室へと移る。
「今の教室に通い始めるまで、1、2年のブランクがありました。久しぶりに土に触れると気持ちが落ち着いて、無になることができる。そういうことにあらためて気づくことができました。作った器には自分の気持ちが反映されるのも面白いですね。焦りがあると、割れてしまったりするんです」
■自分で考え創り出した作品を贈る喜び
佐藤さんは作った器を、子供や友人にプレゼントすることが多いそう。
「先日、友人から10年くらい前に贈った器を今も使っていると言われて感激しました。それにお家に遊びに行ったときに、私が作った花瓶に花が飾ってあったりするのを見るとやっぱり嬉しいですね。息子も外食に行ったときに気に入った器を見つけると、写真を撮って『こういう器を作って』とリクエストしてくれます」
佐藤さんが作った器を実際に見せてもらうと、まるでお店で販売しているような出来上がり。販売することを勧められることも多いそうだが、佐藤さんは首を振る。
「売るために作るよりも、誰かにあげて喜んでもらえたほうが私にとっては価値があることです。最近は、器を作ったときに余った土でネックレスを作っています。そういう風に自分で色々考えて作るのが楽しいですね」
自身の生活も器を作り始めたことで、彩が増えたそう。
「花瓶を作るのが好きなので、花をよく飾るようになりました。大げさな花ではなくて、野に咲いている花を摘んで飾っています」
最後に佐藤さんは、「思いついたものを作ってみたり、思ってもいないものができたり陶芸って面白ですよ」と陶芸の醍醐味を教えてくれた。