6年ぶり博多座へ登場
名作4演目がそろう六月博多座大歌舞伎。6年ぶりの博多座登場となる彌十郎さんは、そのうち3演目に出演。昼の部では「修禅寺物語」で主役の夜叉王、「身替座禅」で奥方の玉の井を、夜の部「東海道四谷怪談」では直助権兵衛を勤めます。
修禅寺物語 職人気質の面作師(おもてつくりし)
鎌倉時代、修禅寺に幽閉されていた二代目将軍源頼家から、面の制作を依頼される職人気質の夜叉王。面作りに全てを捧げる父と、二人の娘の物語です。この夜叉王は、彌十郎さんの父である坂東好太郎さんも演じたことのある役。
「父が演じた時、私は出演していませんでしたが毎日観ていました。思い入れのある役なので、色々と考えて作っていきたいです」
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で注目を集めたことも記憶に新しい彌十郎さん。この物語は、ちょうど同じ頃の話だそう。「あの時代の親子の姿、将軍の哀れな最期」などがみどころと話します。
尾上松也さんの奥方役 身替座禅
亭主が彼女のところに行くために奥方に嘘をついて家来を「身替り」にするユーモラスな舞踊劇です。彌十郎さんは、亭主に深い愛情を持つ故に嫉妬深い奥方を勤めます。この役は女方ではなく立役の俳優が演じることでおかしみと恐妻を表現するそうです。
「愛情からの行動が笑いになるので、笑わせようと思って演じませんが、私が女方で出るというだけで、お客さまが自然と笑うんですよね。亭主役の尾上松也さんはずいぶん年下なので、母親に見えないよう少し年上の女房という感じで演じたいです。亭主が彼女との楽しさを踊って語り、家来に化けている奥方が聞いているのに気づかないという面白さ。そこを楽しんで頂きたいです」
江戸の悪をにおわせる直助権兵衛
そして夜の部の東海四谷怪談。この有名な怪談話では、直助権兵衛を勤めます。
浪士の中間から町人になり、江戸の悪をにおわせる役どころ。
注目ポイントを尋ねると
「武家の女房が騙されて殺されて化けて出る。その恐ろしさと哀れさと。民谷伊右衛門の美しい悪というのもまた見ものです」
回数と年齢を重ねることで生まれる演じ方の変化
今回の役柄は以前勤めたことのある役。演じる上での変化について
「年齢的なことや体のことなど、それに応じて演じ方は変わっています。そして回数を重ねるごとに変化もあります。ただ納得して終われることが無いんですよ。次にチャンスがあったら『こうしたい』と思う。その繰り返しです」
博多座開場25周年にちなみ、25年前のことを振り返ってもらうと
「その時は頑張っているつもりだったのですが、今考えると『もっとやっておかないと』と思いますね」
柔らかな口調の中に、「修禅寺物語」の夜叉王に通じるような芝居に対する厳しさが垣間見えます。
公演以外の楽しみを伺うと、
「福岡では魚介をはじめ食が楽しみ」と思わず笑みがこぼれますが
「まずは舞台のことを思っていないといけないですね。公演以外の楽しみは、今しばらく考えないようにしようと思っています」と律します。その背景には、映像でしか彌十郎さんを知らず、「初めて歌舞伎を目にするお客さまを裏切りたくない」という熱い思いが。
六月博多座大歌舞伎で、それぞれ異なる3つの顔を演じる彌十郎さんから目が離せません。