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福岡麺人生52杯目・寒さ忘れる一杯 きりや

福岡麺人生52杯目・寒さ忘れる一杯 きりや


「きりや」
福岡市西区姪の浜5-1-27
午前10時半~午後2時半ごろ 月曜、第1、3火曜定休
ラーメン 650円、きりやそば 800円、タンメン 800円

 「北風が吹くと、食べたくなるんですよ」。そう話す常連客がいるそうだ。その言葉、よく分かる。ぼくも寒くなれば、同じように頭に思い浮かべてしまう。その一杯とは「きりや」(福岡市西区)の人気メニュー「きりやそば」である

 1月の寒い日にのれんをくぐった。もちろんお目当てはきりやそば。注文すると、店主の桐谷春雄さん(65)が中華鍋に向かう。豚肉、人参、キクラゲ、長ネギ、ニラ、タケノコ、タマネギを炒め、スープを入れてとろみをつけていく。隣をみると妻の明美さんが麺を茹でている。熱々のスープは熱々のまま。2人の動きからはそんな思いがあふれる。

「スープは豚骨と鶏がら。でもぐつぐつ煮たりはしないね」と桐谷春雄さん

 できあがった一杯は、テーブルに置かれても湯気が止まらない。まずは、とろみ餡(あん)をまとった具材をほおばる。やっぱり熱い。それでも口をハフハフさせながら食べ進めた。キリっとした醤油風味に、柔らかなだしスープが溶け込む。下に隠れているのは細めの縮れ卵麺。具材のうま味がしみこんだ餡と一緒に食べるのが、これまた格別なのだ。

 ラーメンも出しているが、醤油色のスープにナルトが載ったいわゆる「中華そば」だ。ほかの人気メニューを問うと、九州ではメジャーとは言いがたい「タンメン」を挙げた。「おれはこれしかできねぇから」。桐谷さんは言葉からして関東の人だった。

 千葉県出身。18歳で料理の道に入った。最初はいわゆる町中華に勤務。その後20代後半で独立し、品川・戸越銀座で店を出した。数年でその店はたたみ、福岡出身の明美さんとともに九州に移り住んだ。

 場所が変わってもやることは変わらない。佐賀市川副町にあった「南風亭」で働き、厨房を任された。そこで出していたのは関東風の醤油ラーメンやタンメン。平成9年に「きりや」を開いてもメニューは変えなかった。

 今、九州でも醤油ラーメンを出す店は多いが、きりやほどオールドスクール(昔ながら)な一杯にはなかなか出合えない。開店当初、地元の人は黒いスープに戸惑ったという。そんな中で支えてくれたのは関東からの単身赴任者たちだった。 

 彼らは週末を関東で過ごし、羽田から福岡に戻る。最初の頃は東京を発つ前に名残惜しさから現地でラーメンを食べていた。ただ、きりやを知って以降、そうはしなくなる。 

 「『東京と変わんねぇからいいや』って、向こうで食べずに空港から直接うちに来る。そのまま単身赴任先のマンションに帰るんですよ」。支えのおかげで、店は続く。店が続くにつれ、地元のファンも増えていった。

 今後どのような店に? 最後にそんな質問をぶつけてみた。答えは「これからもこのメニューだけ。自分の経験しかないから、お客さんに合わせてもしょうがないでしょ」。桐谷さんの「これしかできねぇ」は自信の表れでもある。話を聞きながらそう確信した。

 最後まで熱々のスープを飲み干した。店を出ると冷たい風がほおを撫でる。でも寒くはなかった。


文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社出版グループ勤務。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。「CROSS FM URBAN DUSK」内で月1回ラーメンと音楽を語っている。

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