ドリトル先生、郵便事業をたちあげる
今月ご紹介するのは、岩波少年文庫の『ドリトル先生の郵便局』。この文庫は、戦後すぐの1950年に刊行され、この時期少年期を過ごす子どもたちに届けられた読み物で、今回取り上げたのは、『ドリトル先生のアフリカゆき』シリーズの一冊である。折しも詩人の谷川俊太郎さんの「メールの文体というのは、相手に対する一種の甘えの形式みたいなところがあり不健康なことだ」という文章に触れ、手紙を配達する郵便局という題名にひかれたのである。
イギリスで暮らすジョン・ドリトル先生は、動物専門の医者で、自然科学者。さまざまな難事件の解決に世界各地を飛びまわる一方、動物たちの悩みはもとより、人間の苦難にも手をさしのべ、まわりから絶大な信頼を集めている。先生は、アヒル、ブタ、犬、フクロ、それに白ネズミを家来に引き連れ、世界各国に郵便を届けようとアフリカで郵便配達事業を立ち上げた。その郵便局長がドリトル先生。配達される手紙を世界中の動物たちが楽しみにするという郵便事業の発想がとてもユニーク。
現代はメールの時代だけれど、もしかすると子どもや大人の心を本当に幸福にするのは、あなただけにはるばる時間をかけて配達された一通の手紙かもしれない。そんな思いにさせてくれたドリトル先生、また岩波文庫であいましょう。
『ドリトル先生の郵便局』
ヒュー・ロフティング 作・絵
井伏 鱒二 訳
岩波少年文庫 760円(税別)
六百田麗子
昭和20年生まれ。
予備校で論文の講師をする傍ら本の情報誌「心のガーデニング」の編集人として活躍中。