みずみずしい言葉の花束
令和の新しい時代を迎え、現代の社会は、ますます混迷を深めているように感じる。その最大の要因は、スマートフォンやインターネットをはじめとする情報メディアのめまぐるしい発展にあるだろう。瞬時に人やモノ、コトとつながり、同時に、瞬時に切り離されることで人間は、非常に不安定な状況に追いつめられている。スマートフォンを食い入るように見つめる若者、さらには中高年まで、自分やまわりの人の、心の深いところに目をむける時間を惜しんでいるように思う。
今月紹介する本は、評論家小林秀雄、数学者岡潔との対談からなる『人間の建設』。日本を代表する「知の巨人」として名を馳せるお二人だが、すでに物故なさって久しい。対談を通して何度もお二人の話題になるのは、「知性や意志は、感情を説得する力がないこと。人間というのは、感情が納得しなければ、本当には納得しないという存在らしいということ」である。また「情緒というのは人本然のもので、それに従っていれば自分で人類を亡ぼしてしまうような間違いは起さないが、情緒に従うことができて人は初めて人間の建設に向かうのだ」と語っている。
お二人の対談は縦横無尽で、実にみずみずしく、命に直接届けられた言葉の花束のようだった。新しい年、私たちは人間の建設に向かって力強い一歩を踏み出したいと思う。
『人間の建設』
小林秀雄、岡潔 著
新潮文庫 430円(税別)
六百田麗子
昭和20年生まれ。
予備校で論文の講師をする傍ら本の情報誌「心のガーデニング」の編集人として活躍中。