また走れるかもしれない
還暦前にフルマラソンに挑んだことがある。2014年11月の第1回福岡マラソンだ。西日本新聞社を挙げて、この大会を盛り上げようと記者の出場枠を取りリポートする企画も持ち上がった。3カ月前から完走できるように事前トレーニングもあるプロジェクトだった。
当時、西日本スポーツの本部長だった私は、後輩たちに「第1回大会の名誉ある体験記を書くことに志願する者はいないか」と声をかけた。ところが、フルマラソンを走った経験のある女性記者しか手を挙げなかった。「ならば、俺がエントリーするぞ!」と言うと部員のほぼ全員が「どうぞ、どうぞ」と、まるでお笑いの〝ダチョウ倶楽部〟みたいに私が出場することになった。7時間の関門閉鎖ギリギリの6時間55分で完走した。
いや完走できた、というべきだ。事前トレーニングで約3カ月間にわたり指導を受けたランナー専門のパーソナルトレーナー小島成久さんの指導が良かった。シューズの履き方、値が張っても専用靴下を履くべしなど― ランニングの基礎から教えてもらったおかげで、レース後に筋肉痛が1週間ほど続いたが足にはマメ一つできず故障もなかった。
何より西日本スポーツで事前トレーニングを毎週連載していたおかげで、貴重なアドバイスも受けた。福岡市の大濠公園でジョギングしていた時のことだ。どこかの企業のお偉方然とした初老の男性が、ジョギングをする私に併走し「連載記事、いつも読んでますよ」と話しかけてきた。「いくらトレーニングしても不安でしょう? 私が完走した時のコツを伝授しますよ」と走りながらアドバイスをしてくれた。
それは「ひざと股関節を壊さないようにスロージョギングでいいんです。時速6キロペースで1時間走れるようになれば必ず完走できます。ただし無理は禁物ですよ」と言って「じゃあ」と片手を挙げてスーッと走り去った。思い起こせば、あの人はマラソンの神様だったのかもしれない。私はレース当日の11月9日に向けて、事前トレーニングとして週2~3回1時間限定で時速6キロ台となるようジョギングを続け、無事完走できた。
在宅勤務となり運動不足解消のため夜のジョギングを再開した。スロージョギングで1時間。日に日に時速6キロに近づいている。生来のお調子者の血が騒ぎ始めた。福岡マラソンをまた走れるかもしれない、と。
文・写真 岡ちゃん
元西日本新聞記者。スポーツ取材などを経験し、現在ブログやユーチューブなどに趣味や遊びを投稿し人生をエンジョイするぐらんざ世代。