センチメンタルジャーニーに挑んだ
この「岡ちゃん挑む!」コーナーには読者の皆さんからありがたいご意見やお誘いをいただく。「登山しませんか」「社交ダンスは楽しいですよ」などなど。そして、これは!と思えたのが鉄道の「大回り」だった。何より財布にやさしい。
JRの旅客営業規則第156条第2号にはこんな規定がある。「大都市近郊区間」(東京、大阪、福岡、新潟、仙台)は①実際に乗車する経路にかかわらず、最も安くなる経路で計算した運賃で乗車できる②重複しない限り、乗車経路は自由に選べる③途中下車はできない―というものだ。つまり、福岡都市圏近郊区間なら博多駅を起点に〝一筆書き〟で大回りをしても隣の吉塚駅まで乗車すれば最も安い運賃170円で乗れるわけだ。
通勤ラッシュが一息ついた平日の午前10時半。まず鹿児島本線の博多発快速に乗って原田を目指した。あらためて気づいたが最近の電車は速い! あっという間の午前10時54分、原田に着いた。到着するやいなや駅の端っこにホームがある筑豊本線原田線の原田発桂川行に乗り換えた。
今回の目的は停車していた国鉄時代から走るキハ40系気動車(ディーゼル動車)に乗ることでもあったので4人掛けボックス席に座った時には、少しホッとした。午前11時ちょうどに一両編成のエンジンがうなりをあげてゆっくりと動き始めた。「ローカル線の旅はこうでなくっちゃ」と周囲を気にしながら、早速おにぎりをほおばった。缶ビールやちくわを買って盛大に飲み食いをしたいところだが、コロナ禍ゆえに今回は避けた。視線を隣のボックス席に移すと、若者が携帯を見つめながら大きなメロンパンを食べていたので少しだけ安心した。
各駅停車で冷水峠の向こうの筑豊へ向かう。列車の車窓は、なぜに過去を思い出させるのだろうか? 私の新聞記者としての初任地は筑豊だった。新聞記者は「社会正義」や「人権」を何よりも大切にする。一方で全国紙を含めて当時の新聞社の職場環境は人権無視がはびこる真逆の世界だった。新人時代に失敗ばかりをした過去の出来事が列車の規則正しいリズムとともに蘇る。
そうだ、こんな時間は「これに限る」とバッグから新聞を取り出した。久々にじっくりと読んで気がついた。「新聞はやはり面白い。特に西日本新聞は…(手前みそですみません)」。桂川から再び快速に乗って、旅の終点吉塚に午後12時13分に着いた。過去を思い出し現在の出来事をじっくり見ることができた距離にして65.6キロのセンチメンタルジャーニーだった。
文・写真 岡ちゃん
元西日本新聞記者。スポーツ取材などを経験し、現在ブログやユーチューブなどに趣味や遊びを投稿し人生をエンジョイするぐらんざ世代。