「大重食堂」
警固本店
福岡市中央区警固1-8-20 12:00~14:00 日曜定休
今泉店
福岡市中央区今泉1-12-23 11:00~25:00 不定休
◎純らーめん七節 800円(今泉店は850円)
カウンターにサイフォンがずらりと並ぶさまは喫茶店のようである。しかし、メニューを見ても珈琲はない。漂ってくるのはダシの香り。『大重食堂』の看板メニュー「純らーめん七節」は、サイフォンでダシを取る珍しい手法の一杯だ。
上部のロートには7種の削り節が入る。店主、大重洋平さん(41)は、注文のたびに昆布とあごで取ったスープを下部のフラスコに入れて火をともす。熱されたスープは吸い上げられ、削り節と混ざり合い、火を止めると再びフラスコに落ちていく。その間、数分。見計らったように麺も茹で上がり、完成となる。
スープをすすると華やかなダシが鼻を抜けた。河豚、鰹、鯖、鰯といった魚系だけでなく、牛ヒレ、豚ヒレ、鶏むね肉の削り節も加えているからだろう。柔らかながらコクがある。ラーメン専用小麦「ラー麦」の麺もぷるんと弾力があって心地よい。
「節の研究が発端なんですよ」。そう語る大重さんはいわゆる〝ラーメン職人〟ではない。23歳で料理の世界に飛びこみ、2010年に『BigHeavy Kitchen』をオープンした。和洋の創作料理は人気となった。ただ同時にもどかしさも抱えていた。「長い時間を掛けてダシを準備しても時間と共に味が変わるし、冷蔵や冷凍保存も適さない」。そこで3年ほど前から試し始めたのがサイフォンと削り節だった。「フランス料理の料理人がサイフォンでブイヤベースを作っていたのがヒントです」。肉や魚などさまざまな食材を煮沸、乾燥、燻し、節を作って、サイフォンでダシを取るようになった。
大重さんは大のラーメン好きでもある。その延長でラーメンを作るのは自然な流れだったのかもしれない。「和ダシなのでうどんの麺をいれたらうどんっぽくなる。いかにラーメンにするか」と試行錯誤した。うま味調味料は使わない。何十種類もの節を試した。昨年7月、大重食堂として昼の営業を始めた。「ダシの新鮮さ。お客さんのために一杯一杯作るのも受けた」と好評だった。
昨年末、さらなる飛躍を遂げた。博多一風堂の創業者、河原成美さんがプロデュースする「WR(ワールドラーメン)GP」で優勝したのだ。全国の有名店も参加する中での最高評価。1千万円という破格の賞金で5月、今泉店を開店した。
ラーメンは長い時間かけてスープを取るのが一般的だ。一方、大重さんの一杯は数分で出来上がる。一見効率的にも思えるが、節を作るのには1カ月から半年ほどかかるという。節が持つ時間、そして味の蓄積。その豊かさを感じられるのも魅力である。
サイフォンを前にする大重洋平さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「川上政行 朝からしゃべりずき!」内コーナーで毎月第1月曜にラーメンを語っている。