「侍.うどん」
福岡市博多区博多駅前4-36-20 内山ビル102
11:30~15:30(土日祝は15:00) 月曜定休
◎侍.うどん900円、フライパンカレーうどん(葱と鶏キーマ)950円
「個性的」と思われるか、「奇をてらった」と受け取られるかは表裏一体である。他にないものを出すことは飲食店にとっての重要なこと。ただ、それは簡単なようで難しい。
「侍.うどん」は個性的だ。メニューはうどんの枠を楽々飛び越える。でも「奇をてらった」と感じさせないのは、地に足付いた説得力のようなものがあるからだ。
店名を冠した看板商品は、ごぼうなどの天ぷらに牛肉が載る。見た目も豪勢で麺の存在感も抜群。この一杯を紹介しようと向かったのだが…。
出迎えてくれたのは、まげ結い姿の店主、相馬寛之さん(46)。メニューを眺めていると「最近フライパンにはまってるんです」と言う。そんな〝誘い〟に最初の思いはどこへやら。「フライパンカレーうどん」なるものを注文した。
相馬さんは炎を上げて鍋を熱した。スパイス、鶏ひき肉を炒めるとうどん屋らしからぬ香りが漂う。麺はエッジの立ったきれいな仕上がり。そこに豪快にカレーを盛る。「あえて麺線隠すのがみそです」と笑った。
よくあるカレーを和だしで溶かしたスープタイプではない。一口目からスパイス感はかなりのもの。肉々しさもあり、大ぶりなカボチャ、ジャガイモもごろごろ。「食べている」という感覚が心地よい。夏に出した「スタミナ令麺」では冷たい麺に炒めた牛肉を合わせた。「熱さと冷たさが同居する。フライパン革命ですよ」
引き出しの多さは過去の経験が生きている。20歳でホテルに就職し、レストラン、ウェディングなどを経験した。管理職を打診されたのを機に30歳で転職。選んだのは、ホテルの夜勤明けに通っていた「博多一風堂」だった。バイトも社員も関係なく朝から声を張り上げる。ホテルよりきめ細かいサービスもあり、興味を抱いていたのだ。
ラーメンの現場をこなすうちに、料理の楽しさに目覚めた。店長を務めた薬院店では豚骨ではなく醤油ラーメンを前面に出した。今のフライパン料理は系列店「五行」の焦がし醤油ラーメンが頭のどこかにあった。
次なる転機は38歳。腰痛を発症し、勤務に支障が出るようになった。年齢的にもあっさりとしたうどんに惹かれた時期。40歳になる平成25年に現在の店をオープンさせた。
ただ、普通のうどん屋にはしなかった。中華、カレー、チャンポン店とのコラボ企画を実施。韓国料理のサムギョプサルをヒントに、麺と豚肉を野菜で巻いて食べる「侍ギョプサル」などの創作麺も話題となった。
店名の中の「.」は点を線(麺)にしていくとの意を込めた。ホテル、ラーメン、うどんと続けてきた今、50歳以降を人生の集大成にしたいと構想する。「豚骨とうどんは意外に合う。さらに泊まれれば最高でしょ」。これまでの経験が線となってつながっていく。突拍子もない考えのようだが、妙な説得力がある。
厨房に立つ相馬寛之さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「小林徹夫のアサデス。ラジオ」内コーナーで毎月1回ラーメンを語っている。