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ハットをかざして 第64話

ハットをかざして 第64話

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


ATG少年

中学3年のとき、ラジオドラマ「戦国忍法帖」が放送されていた。脚本は佐々木守という男で、荒唐無稽なストーリーだった。

東京の女子大に行っている四歳上の姉から、佐々木守に会い、食事をご馳走になったと聞いた。姉の一番の友だちが佐々木の妹だった。大分県から上京した姉と、石川県から上京した田舎者同士、ウマが合ったらしい。幼心に憧れの脚本家であり、私も上京したら、いつか佐々木に会いたいと思っていた。残念なことに、私がS大に入学するのと入れ替わりに姉は大分に戻り、県の保健所勤務となった。

上京してすぐに、「日本春歌考」(大島渚監督)を観た。脚本の一人に佐々木の名前があったからだ。東京受験、性への妄想、ベトナム戦争反対、多くの矛盾を内包し、かといって錯乱も無く、青春はあやふやに過ぎていく。映画は時代と同時進行でなくてはならず、時代の悩みと問題点を抉らなくては存在理由がないことを教わる。この脚本は主に佐々木だろうと思った。

新宿にATG(アートシアターギルド)の映画館があった。アートシアター新宿文化である。我々学生は長髪にして、フレアードのGパンを穿き、ヒールの高い靴を履き、少しでも足を長く見せようとズボンの裾を踏んで闊歩していた。小脇に羽仁五郎の「都市の論理」、朝日ジャーナル、大江健三郎の「万延元年のフットボール」、内側の見えないところに平凡パンチを隠し持つ。風月堂でコーヒーを飲む。田舎者にとって風月堂は入るだけで度胸がいる。みんなが眼を切り、睨み合う。よってサングラスが必需品となる。空気に負けないための武器である。高嶺の花、レイバンが主流行だった。その点、原宿の喫茶「レオン」あたりは軟弱で、新宿ほどの緊張感はなかった。

ATGで「無理心中、日本の夏」(大島渚監督)を観た。また脚本の一人に佐々木の名前があったからだ。つまらない作品だった。佐々木独特の荒唐無稽さがなく、あまりにも終わり方が観念的過ぎた。えこひいきだが佐々木はこの映画の台本の中心を成していないだろうと思った。

翌年、「絞死刑」(同)を観た。やはりシナリオの一角に佐々木の名を見たからだ。これは共同脚本にしては佐々木色が強く、多くの問題を提起した力作だった。70年安保世代に、死刑制度、在日朝鮮人問題、国家権力の笑えるような矛盾をドカンと中心に据えていた。

佐々木は映画では直球の重い球を投げ、テレビでは緩い球を投げていた。テレビ「ウルトラマン」では、演出の実相寺昭雄と組み、まるで普通の人間と云えるウルトラマンを描いていた。「お荷物小荷物」は中山千夏を主演にノーテンキな人間模様をチャランポランに描く。

佐々木と実相寺は五分の兄弟分のように思えた。生まれは一年違うが、実相寺が翌年の早生まれで学年は同じである。二人は男同士が男に惚れたホモだったと云っていい。佐々木が69歳の2月に川を渡ると、実相寺も追いかけるようにその年の11月に川を渡った。

妹さんに頼めばいつでも会わせてもらえただろうが、会わないままだった。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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