本サイトはプロモーションが含まれています。

ハットをかざして 第74話

ハットをかざして 第74話

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


花&風

私の学生時代、「女」という生き物は身の回りにケもなかった。それが誇りでもあった。連日、雀荘にこもり、JAZZ喫茶でとぐろを巻き、のんだくれ、土曜の夜は吉祥寺東映でオールナイトを観る。強烈に評価するのは「昭和残侠伝」シリーズである。とくにマキノ雅弘監督版。理由は高倉健の花田秀次郎と、池部良の風間重吉が凛々しくていいのである。功名も、金も、女も、一切求めていない美しい男が雪の太鼓橋を越えて乗り込んで行く。高倉はダンビラ、池部はドス、死ぬ気の男には色気がある。ケンさんの「唐獅子牡丹」が館内いっぱいに流れる。深夜ここに居るのは、地方出身の学生と、ヤクザと、ヤクザの連れの水商売のバシタばかりである。

「待ってました、ケンさん!」「ケンさん!」「ケンさん」「ケンさん!」「リョウ!」「リョウ!」の掛声が随所からスクリーンに掛かる。みな日ごろの暮らしのウラミツラミを、この二人の斬り込みに賭けているのである。

♪親にもらった大事な肌を 墨で汚して白刃の下で 積もり重ねた不孝の数を なんと詫びよかオフクロに 背中で泣いてる 唐獅子牡丹♪
(作詞作曲 水城一狼。映画挿入歌詞)

「ご一緒させて頂きます」の池部の錆びた声、男同士の相合傘、二人とも泥藍大島紬の着流しである。東映の暗がりで、昼間萎えていた気持ちがほむらの如く蘇ってくる。観客の男たちの肩が七三に怒ってくる。紫煙がいっせいに吹き上がる。前の席の背もたれに両足を上げているヤカラたちもいる。化粧の浮いたバシタたちは極道の肩に寄りかかっていく。東京には出てきたものの、いい賽の目が出ない連中が淋しい魂を寄せ合っている。

男の行く道は二つしかない、赤いオベベ(刑務所着)を着るか、白いオベベ(棺桶着)を着るか、である。母の深夜まで働く姿を思い浮かべながら、♪何と詫びようかオフクロに、に酔っていく。東京砂漠の辛さを傷ついた獣のように、東映という穴倉の中で心の傷を舐めている。学校はすでにドロップアウトの体たらくで、あしたが見えない。単位の取得は、その先の就職はどうなるのだろうか、不安がよぎる。孤独を無理やりストイシズムで誤魔化している。

花田(高倉)と風間(池部)は共に惚れた女を振り捨てて死出の旅である。男の憧憬の姿はこの「花&風」コンビにある。池部は息絶え、高倉は血みどろの深手、背中でただ唐獅子のみが空しく吼えている。拍手が鳴り終わるころに、館内の電気が点る。ヤクザたちはより肩を怒らせ、夜だというのにサングラスをかけ、女は邪魔だとばかりに大股で先に行く。学生たちも肩を怒らせ、目に角を立てている。全員けんか腰なのだが、といってガンを切り合うわけでもない。背中はどこか淋しげ気で、ナルシズムに浸りながら、夜明け前の吉祥寺の街に消えていく。

それにしても、いくら肩をいからせても、アイビールックで身を固めていることだけは仁侠映画と似合わなかった。今でもそれだけは忸怩としており、青き日の自己嫌悪である。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

関連するキーワード


ハットをかざして

最新の投稿


[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方&おすすめ商品15選|お菓子・フルーツ・飲み物・など

[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方&おすすめ商品15選|お菓子・フルーツ・飲み物・など

大切な友人・知人、会社の先輩・同僚・部下が入院したと聞けば心配でお見舞いに駆け付けたいもの。そんな時に喜ばれるお見舞い品を、バリエーション豊かにご紹介!事前に相手の体調の状態やシチュエーションをリサーチし、ふさわしい手土産を準備しましょう。[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方とおすすめ商品15選をお届けします。


[2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったり!もらって嬉しいおすすめギフト10選

[2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったり!もらって嬉しいおすすめギフト10選

引越しの段取りの中で忘れてはいけない、引越し先のご近所さんへのご挨拶。より快適な新生活を送るためには、ご近所さんとの良好な関係は不可欠です。「これからよろしくお願いします」という想いを込めて、気の利いた粗品で新生活を始めましょう![2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったりのおすすめギフト10選をご紹介します。


女性への2万円のプレゼントおすすめ12選【アクセサリーから家電まで】多彩に紹介!

女性への2万円のプレゼントおすすめ12選【アクセサリーから家電まで】多彩に紹介!

ステキな女性に贈りたい!予算2万円で購入できる、上質かつ高級感あふれるおすすめ商品をご紹介します。2万円という決して安くない予算をかけるプレゼントは、相手が心から喜んでくれる品を選びたいもの。女性へのプレゼント選びは相手の好みやライフスタイルに大きく左右されるため、簡単なことではありません。ここでは、アクセサリーやファッションアイテム・家電・日用品など女性向けのおすすめアイテムを多様なジャンルからご紹介します。人気ブランドの商品や日本製の高品質な商品を厳選したので、プレゼント選びの参考にしてくださいね。


プレゼントにおすすめのレディース指輪15選|女性が喜ぶ人気ブランドリング!

プレゼントにおすすめのレディース指輪15選|女性が喜ぶ人気ブランドリング!

結婚記念日や誕生日に妻へ指輪をプレゼントしたい方へ。大切な男性からもらう指輪は、女性にとって特別な贈り物。せっかくプレゼントするなら相手が喜んでくれる指輪を選びたいですよね。この記事では、女性が欲しいと思っている人気ブランドや憧れのブランドの指輪をご紹介します。素敵な指輪のプレゼントで、二人の絆をもっと深めましょう。


[2024年版]絶対に喜んでもらえる妻への結婚30周年記念プレゼント14選!

[2024年版]絶対に喜んでもらえる妻への結婚30周年記念プレゼント14選!

[2024年版]妻に贈る結婚30周年記念のプレゼントを14選ご紹介します。結婚30周年(真珠婚式)を祝うプレゼントはしっかり準備したいもの!真珠にちなんだジュエリーのほか、女性なら絶対喜んでくれるもの、また夫婦で使えるペアギフトもお届けします。長年の夫婦生活を讃え喜びを分かち合える結婚記念日を、特別なギフトでお祝いしてみませんか。


発行元:株式会社西日本新聞社 ※西日本新聞社の企業情報はこちら