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ハットをかざして 第122話 渋谷ジァンジァン

ハットをかざして 第122話 渋谷ジァンジァン

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


私のアパートは井の頭1丁目にあり、窓から京王帝都井の頭駅のプラットホームが見えた。久々に井の頭線に乗り、渋谷に出ることとした。

ハチ公口から道玄坂を左手に見て右折、宇田川町はNHK放送センター方向を目指す。ふっと道玄坂に目をやると、小林旭が大股でカッコよく肩で風を切って歩いていた。しばし見とれてから歩を進める。行く先は東京山手教会である。オフホワイトの裾広がりの建物で、中央に大きくクルスのオーナメントが飾られていた。

ここの地下に「ジァンジァン」はあった。よく人はジャンジャンと書くが違う、「ジァンジァン」が正しい。教会の領域だけに地下に降りる時、十字を切ってから下った。まさにアングラ、もう47年前のことである。

この日は学生仲間で噂の「頭脳警察」が出るということで、観に行ったのだ。パンタ(中村治雄)とトシ(石塚俊明)の二人組である。仲間の評価では、JAZZとロックの違いがあり、一概に比べようはないが、山下洋輔トリオのドラム森山威男よりも、トシの方が力があるということだった。狭い地下ホールはベルボトムの男たちと、ロングヘアーセンター分けの女たちでいっぱいである。中央のステージに長髪の二人が出て来る。出囃子らしき、♪頭脳警察に たーよればー♪から始まる。パンタの体の奥の、地の底から吐き出すようなシャウトが館内に嵐を起こす。なるほどトシのスティックさばきは力強く、この世の不条理を打ち砕かんと怒りをぶつけていた。尾骶骨から肺腑を抜けて、頭脳の海馬まで響いてきた。命を削るような二人のプレイに心底魅了された。

東映任侠映画もすたり始め、鶴田浩二も健さんもすでにマンネリ化していた。頼るべきものが無くなった時代、この二人に頼れる感があった。無頼でアナーキーで狂気に満ち満ちていた。エレクトリック・パーカッショングループと評論家は評していたが、私はアナーキー・テロリスツと形容してみた。

就職が決まってからの落胆と、モラトリアムの時期だった。1年前、大菩薩峠事件で多くの学生が凶器準備集合罪で挙げられ、半年前のよど号組は北朝鮮に渡った。ほとんどの学生は長髪を切り、就職活動に東奔西走した。いちご白書である。右顧左眄、日和見、時代に合わせて自分をコロコロ変えていった。わざと忸怩ぶりながら、自己嫌悪ぶりながら、どこかニヒルな無頼を気取っていた。

思い出せば、このジァンジァンで「ザ・モップス」というグループに遭遇した。ボーカルはまだ無名に近い鈴木ヒロミツ、「朝まで待てない」が小ヒットしていたが、面白ソング「月光仮面」大ヒットの前年の話である。

翌年9月、ロンドンからレッド・ツェッペリンが初来日した。武道館のチケットを入手し、友と観に行った。ジミー・ペイジは長い革の鞭を振り回しながら、ライオンを仕込む調教師のように床を叩きながら登場してきた。頭脳警察は負けていないように思えた。

青春のジァンジァン、今はすでに無い。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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