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ハットをかざして 第126話 バプテスマ

ハットをかざして 第126話 バプテスマ

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


友のKがアパートを訪ねてきた。

半同棲中の彼女を伴ってである。友はベッチンのモスグリーンのパンタロン・スーツ、クリーム色のカッターシャツの襟には赤いステッチが入り、こげ茶のニットタイをしていた。彼女は黒のホットパンツに膝上までの黒の革ブーツを履き、ブラウスは深紅、黒いロングコートを羽織り、黒のつば広のハットを被っていた。

Aが彼女が妊娠をしたので、結婚をしようと思うと云う。Aは相当な遊び人で、親からほぼ勘当を受けていた。就職もまだ決まっていない。吉祥寺のBARでバーテン見習のバイトをしており、うまくやればサラリーマンより、よほど実入りがいいと甘いことを云う。親にも告げずに結婚をしたいという。もう22歳だし、親の許可を得る必要もない。勝手に結婚をすればよいことで、別に私に告げにくる必要はない。
「頼みがあって来たんだ」
「金なら、ない」
「いや、金じゃないんだ。結婚式の立会人になってほしいんだ」
「え、市役所へ行って、婚姻届けを出せば済むことじゃないか」

Aがまた説明を始めた。彼女がどうしても教会で式を挙げたいという。この頃、教会結婚式が流行っていた。吉祥寺のプロテスタントの教会に頼みに行ったら、洗礼を受け、信者にならなくては式は挙げられないとの事だった。
「じゃあ、信者に成ればいいじゃないか」

それが…とAは口ごもりながら、まず洗礼を受けなくてはならない。「バプテスマ」と云うらしい。そこに立会人がいるとの事だ。二人とも信者に成らなくてはならないので、双方一人ずつ。彼女はお姉さんがしてくれるんだが、オレには東京に知人がいない。お前しかいないと云う。必死の懇願で別に自分に損も害もないようだから受けた。

バプテスマの日、一張羅の紺のスーツに紺と銀のレジメンタル・ストライプのネクタイを締めて教会へ向かった。生まれて初めて教会と云う建物の中に足を入れた。礼拝堂に案内される。牧師は50歳前後の銀縁の眼鏡をした日本人である。二人は別室に案内され、私と彼女の姉はしばらく説教台の前に座っていた。

用意が出来ましたと、教会の奥に誘われた。二人は首から足までの、白のスモックの長いような衣装を着せられていた。通された部屋は、大きなお風呂と云うか、小さなプールと云うか、小タイル貼りの浴槽があり、水が満々と湛えられていた。その池を模したプールの水に牧師と二人は漬かり、牧師が「あなたは主イエス・キリストの救いのしるしであるバプテスマを受けることを願いますか」と問う。友が大きく頷くと、頭から水をかけられた。彼女にも同じことがされて洗礼は終わった。いつの間にか教会の女性信者さんが2名、美しい声で賛美歌を歌い始めていた。

友がプールから出、彼女もプールから出た。濡れたスモックが彼女の体に纏わりつき白い、肌を透かし、官能的な艶めかしい姿を顕した。私は視線を悟られぬよう、より厳しい表情を作り、賛美歌の声に身を任せていた。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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