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ハットをかざして 第142話 歩き回る影

ハットをかざして 第142話 歩き回る影

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


 ゼミの仲間とお別れ麻雀会をした。

 うちのゼミは金融系のゼミで、Aは都市銀行、Bは信託銀行、Cは証券会社、私だけが異端で広告会社、大学近くの武蔵野クラブに集まった。

 47年前で、千点50円、ハコテンだと半荘(ハンチャン)1千5百円の負けとなる。今に換算すれば、7千円くらい、それを徹夜でやるのだから、下手を打てば1万は軽く負ける。仕送りが3万だから、命がけである。アパートで過ごすときは、常に牌を触っていた。元禄、千鳥、爆弾積み、二六時中積込みの訓練をしていた。

 「今日はお別れだから、レートを上げようか」とAが云う。もちろん皆異存はない。

 「じゃあ、千点百円で、いいな」、私が持ち金3万円を見せる。AもBも3万円、Cは2万円しか持ってない。とにかく半荘キャッシュでやることにした。誰かがおシャカになれば終わりだ。皆、マスターに両替を頼み細かくしてスタートした。骰子(さいころ)は二度振りと決まり、爆弾積みは諦める。元禄中心で行く。皆鳴かない連中なので助かる。巧く溝がはまり、清一色(ちんいっしょく)のラッシュである。訝られるとまずいので、三度ほどハネ万を上がってから、封じた。TOPが確定した浮きなので、後はピンフかタンヤオの黙(だま)テンでこの回を終わらせる。ウマを入れてプラス100、1回で1万円の勝ちである。Bが大負けをしている。持ち銭の少ないCは二位で凌いでいる。全員の尻の毛まで抜けば、8万円の稼ぎになる。皆あせりはじめたか、積込みを開始した。崩すのは簡単だ。早くに多めに積み、17牌積みができていない人間の山にくっ付ける。「おい、きちんと17づつ積めよ」とプレッシャーを掛ける。次の半荘から大きい役は狙わず、タンピンのみで早上がりの安上がりに徹する。プラス2でTOPを奪る。これでもTOP賞を入れて、ウマを入れれば1万円にはなる。3人をマイナスにし、一人浮きならば十分にうまみがある。

 12時前にBがオシャカになった。借りが5千円ほどある。同棲中の女に今から持ってこらせると云う。「いや、お別れの餞別だ」と云って棒引きにした。Aはまだ2万円ほどを残し、Cはからくも数千円を残していた。私の勝ち分は6万円弱だった。今に換算すれば30万円ほどだ。場代と飲食代をすべて持ち、ハモニカ横丁の居酒屋も奢ることにした。

 C(証券)が云う。「オレも、これから株という大博奕の世界だ」、「麻雀より、おもしろいよなぁ」とA(銀行)があおる。「そういう意味じゃ、オレもB(信託)も固い仕事で、一生判で押したような暮らしになる」、「いや、信託は大金持ち相手の仕事だから、やはりある意味博奕だよ」とBがニヒルに宣う。

 「その点、次郎は健全だな。これから昇り龍のアドバタイジングだ」、甲論乙駁(こうろんおつばく)しながら三人とも負けた分を取り返そうと、めったやたら呷りにあおる。

 「Life is but a walking shadow…」とシェークスピアの台詞を呟く。「次郎、なんだそれは?」、酩酊したAが問う。

 「人生なんてオロオロと歩き回る影、みたいなもんさ」と答えるも、三人ともすでに首を項垂れ夢の世界に落ちていた。お代を払い、そっと吉祥寺の夜のウォーキング・シャドウに化した。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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