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長谷川法世のはかた宣言22・独白―「袈裟と盛遠」

長谷川法世のはかた宣言22・独白―「袈裟と盛遠」


「月も朧に白魚の篝もかすむ春の空……」
  
お嬢吉三の名セリフ、独白ですね。独白とは早くいえば独り言なんですが、これからお話しする独白は、歌舞伎のものとはちょっとちがうんです。

芥川龍之介の「袈裟(けさ)と盛遠(もりとお)」(大正7年)という作品があります。登場人物二人、二つの「独白」だけで構成されている実験的小編です。歌舞伎の「遠藤武者(えんどうむしゃ)」を、芥川さんが小説化したものなんです。

遠藤武者は前回書いたように、もとは「源平盛衰記(げんぺいじょうすいき)」に書かれた物語で、音さん貞さんも欧米で演じましたし、「地獄門」のタイトルで映画化もされました。

芥川さんの「袈裟と盛遠」では、まず盛遠が屋敷の外にいて、これから忍び込んで討とうとする渡辺渡(わたなべわたる)への思いや、容色の衰えた袈裟に対する複雑な心理を独白。次に、袈裟が邸内で、夫殺し*(1)を頼んだ煩悶、あるいは自己を正当化しようとする女心を独白します。この二つの独白だけで作品は終わりです。戯曲の一部を切りとったような小説なんですね。やりますねえ、芥川さん。

シェークスピアの「ハムレット」には、ハムレットの独白が7か所あり、その第4の独白が、有名なTo be’or not to be…です。

「人生とは何か、いかにあるべきかを問いかけ、あるいは、人間・社会の問題や苦悩を表白し、主張する―これが近代劇ないし近代文芸の…基本的姿勢」(「近代演劇の展開」河竹登志夫)、なんだそうです。

明治36年(1903)川上一座が本郷座で、東京初演*(2)の「ハムレット」にのぞみました。翻案脚本の山岸荷葉は、独白を7つともちゃんと訳していました。けれど上演舞台では、葉村丸(ハムレット)役の藤沢浅二郎の口から、独白はついに発せられなかったのです。

浅二郎さんも音さんも誰も、「独白」が理解できなかったんです。芝居の途中でハムレットが悩むのがわからない。どう演じていいのかわからないんです。それでとうとう、ハムレットの独白は7つとも演じられなかったそうなんです。

翻案した荷葉さんでさえ、「最も無理、最も不自然」(前掲書)と語っているんですもん。

ここには日本近代演劇の生まれいづる苦悩がありましたんです。日本中が近代的自我の苦悩を勉強し始めたばっかりなんです。

「ハムレット」が完全な翻訳で演じられたのは、それから4年後、明治40年坪内逍遥さんの訳による文芸協会の上演でした。

大正7年、芥川龍之介さんは、そうした近代演劇の流れを踏まえたうえで、新たな解釈を加え、袈裟と盛遠に、「苦悩を表白し、主張」するという近代的独白をさせたのでした。

*(1)夫殺し…歌舞伎などでは袈裟は貞節から盛遠に夫殺しを提案し、自分が身代わりとなって死ぬ。芥川は、源平盛衰記で袈裟と盛遠はすでに肉体関係があるとし、その上で二人の緊迫した心理を描き出している。

*(2)東京初演…一般に川上のハムレットが本邦初演とするが、河竹「近代演劇の展開」p.151には 、小櫃万津男の調査(日本演劇学会紀要S55)で、明治35年10月大阪朝日座・京都演劇改良会上演の「紅葉御殿」(もみじごてん)が一年早いという。

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