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長谷川法世のはかた宣言58・鴻臚館場末論(案)

長谷川法世のはかた宣言58・鴻臚館場末論(案)


近年、博多遺跡の発掘で、承天寺の前に方一町、およそ100メートル四方の溝が発見され、奈良時代の官衙※1(役所)とみられている。役所があるのに単なる場末はないだろう。もはや博多場末論はくつがえったともいえる。でも、はかた宣言者としては場末論を黙過するわけにいかない、よね。ここは鴻臚館場末論(案)でもって反論しなくっちゃ、ね(と、さり気なく仲間意識をそそる)。

さて、なぜ鴻臚館場末論か。それは、あっと驚く、鴻臚館隔離施設論による。だって、鴻臚館は外国使節団に対し、おもてなしとともにつぎの2つの職務も負うからだ。
(1)防諜(2)防疫
鴻臚館が外国使節の接客施設であることは、とりもなおさず出入国管理施設※2 であることをも意味している。ならば、防諜・防疫のために都市のはずれ、つまり場末につくるのが一番だ。大野城やのろし台や水城や防人やなんかの防衛体制は秘密にすべきだし、疫病も警戒しなければならない(39話疫病参照)。他国の客は隔離して関係者以外とはできるかぎり接触させないのが基本。鴻臚館とは、大型化はすれど市街化はありえない性格の施設であるはずだ。以上、単純な隔離施設論で、意外にあっさり鴻臚館場末論は成立したのでは?

ひょいと読んだ、菅波正人『鴻臚館への道』※3 に、なんと鴻臚館の「隔離性・防備性」が書いてあった。あっと驚いたのは自分だけかあ。菅波氏は鴻臚館周囲の地形が隔離性・防備性にかなっていると書かれている。ところが、草香江をはさんだ対岸の荒津山裾部は水深があって古代は大型船の停泊地だった、とされる。中山博士が『古代の博多』で述べられた荒津大船停泊説だ。菅波氏は中山説踏襲と思うが、どんな史料があるんだろう。隔離施設なのに大船が容易に寄港できる場所を選ぶだろうか。

未読了だが、服部英雄※4 『蒙古襲来』(山川出版社)に、明治27年測量の博多湾※5 の最も古い海図がつかわれている。その海図が、県立図書館HPの「福岡県の近代地図」で公開されている。荒津山の周囲裾部は数字が見にくいけれど、1尋(=1fathom=1.8m)から2尋のようだ。福岡藩がつくった荒津の波止(場)は明治の海図では1尋のようだが、遣唐使船の喫水※6 は2.8メートルという推定値がある。そら見ろ、浅いじゃんとはいえない。水深は古代から変化する。

『筑前国郡絵図』※7 の早良郡の図には、荒津のあたりに「西風南風乾風(西南風)吉、大船三十艘ホト繋ル片泊」という書き込みがある。また、奥村玉蘭『筑前名所図会』※8 の荒戸山東照宮図の長崎番船帰帆図は、長崎警固の船団約100余艘が荒津に入る絵だ。福岡藩は城の築造とともに海岸を埋立て、波止をつくり、大船三十艘が繋留できるような大工事をしたのだが、問題は古代の海岸だ。
鴻臚館の前はすぐに海岸だったという。人の情も海の深い浅いも測りがたい。

*1)奈良時代の官衙…大庭康時「中世博多の地割と地形変遷」233頁:所収『新修福岡市史:自然と遺跡からみた福岡の歴史』H25 。

*2)出入国管理施設…「渤海国の使節がこの[北陸]方面から来朝することは、従前より禁止している。今後は、[高句麗時代の]旧例にのっとり、九州から来朝するように」宝亀4年6月24日条『続日本記4』直木孝次郎他訳注。東洋文庫。

*3)鴻臚館への道…『海路』12号海鳥社H27年7月所収。45頁

*4)服部英雄…元九大教授。「…百年前に中山平次郎らが説いた科学的精神の継承…」『蒙古襲来』22頁。現代の九大の先生まで相手に相撲をとってるんだ、ボクらは。(注1の大庭氏も元九大教授)

*5)博多湾…海図の名称は「日本北岸福岡湾」。英語でもFUKUOKA WANと表示。あわててネット検索すると、今でも海図や県は福岡湾、市は博多湾と表記。こりゃ都市伝説じゃん!

*6)遣唐使船の喫水…ネット:石井謙治「古代船の復元」日本財団図書館。『北野天神絵巻』の菅原道真の船は、排水量45t、全長32.6m、満載時の喫水1.03mと推定。

*7)筑前国郡絵図…作成者・作成年不詳。県立図書館ネット公開。

*8)筑前名所図会…中村学園大学図書館がネット公開。

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