「胡椒ばとっちゃれ」
「はい」
「洋胡椒やなか、胡椒たい」
こういう会話がかわされた食事風景はどのくらい前のことだったか。博多では唐辛子のことを胡椒といった。博多生まれなので、博多ではと書いたが、九州ではと書くのが正確なようだ。本や辞書やウィキペディアには、九州ではと書いてある。
胡椒(トウガラシ)と洋胡椒(コショウ)。東京オリンピックの年に高校を卒業して、東京へ出たときには、おおかたの人が「ぼかあ、七味だね」「わたしは一味が好き」などといい、唐辛子という人はめったにいなかった。七味・一味は東京検定の最初の関門かもしれない。だいたい七味なんて、ヒチミと発音してしまう。シチ流れでは質流れのようで縁起も悪いし、博多山笠はふつうナナ流と読んでいる。ナナミでは女の子の名前みたいだし。イチミにいたっては、金塊強盗のイチミかと思ってしまう。双六の目がスル目じゃ、博打打ちにぁ縁起が悪いや、うまく当たる※1ようにアタリ目って呼ぼうぜとか、葦原に遊郭じゃそれこそ悪し原だ、良し原にしようぜ、吉原だ、などと縁起担ぎをした江戸っ子にしては、七味はともかくイチミはいただけない気がする。
さて、胡椒つまりは唐辛子だが、『トウガラシの世界史※2』には、中南米原産のトウガラシをヨーロッパ人が手に入れ、地球を半周して半世紀で日本に渡来※3したと書いてある。天文11年とか同21年(1552)にポルトガル人が伝えた、というのが一番古い記録だそうな。南蛮胡椒ともいったらしいので、洋胡椒の呼び名は、明治になってからのことか。
洋胡椒はアジアでは育たないので、栽培できる唐辛子が先に日常化した。和食には胡椒(トウガラシ)、洋食には洋胡椒(コショウ)であるなら、洋の字を冠した理由もわかる。
ところで、チャンポンを食べる時は、洋胡椒をかけないと気がすまない。ソースもかける。ウスターソース※4だ。チャンポンは外国料理※5だからソースをかける。そうしてデザートにアイスクリームだ。旧寿通にあった平和楼にはテーブルにアイスクリームのメニュー※6が置いてあった。わが家では熱いチャンポンのすぐあとにアイスクリームを食べると「おなかがしぇく※7よ」というので、「そんなら、逆に食えばよかたい」といって、先にアイスクリームを食べる習慣になっていた。
※1)当たる…歌舞伎では、公演日をいうのに、当たる〇日よりという。来る〇日よりでは、キタ=北(北東の鬼門に近い)があるので、言いかえたのでは、思っているがどうだろう。
※2)トウガラシの世界史…山本紀夫・中公新書
※3)渡来…多聞院日記文禄2(1593)に、こしょうの種をもらって植えた。…赤皮の辛いのには肝をつぶした。こしょうの味でもない、とかいてある。最初のこしょうはトウガラシ、あとのこしょうはコショウだ。
※4)ウスターソース…関東はとんかつ好きなせいか、濃いソースばかりで、ウスターソースを見つけるのがむずかしい。
※5)外国料理…目玉焼きは洋食だからソース。だし巻きは和食で、かけるなら醤油。
※6)アイスクリームのメニュー…30年位前に長崎の中華料理店にはいったら、同じメニューがあった。「お食事あとのデザートにアイスクリームをどうぞ」。いまはどうかな?
※7)おなかがしぇく…腹痛たになる。しぇくは戸などを閉めるの意もある。
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