「豚そば 月や 大名店」
福岡市中央区大名2-2-44マウンテンハウスⅡ-101
11:30~15:00、18:00~24:00 不定休。
豚そば650円(夜は50円増)、替え玉150円、追いスープ200円
清湯豚骨じわりとブーム
白濁の豚骨ラーメンが偶然の産物であることは知られた話。終戦直後、久留米の屋台店主が鍋をグツグツとたぎらせたまま外出し、偶然できた白濁スープが意外においしかったというのが誕生秘話として伝わる。昔は今ほど濁っていなかったと思われるが、現在九州の豚骨といえば「白濁」というのが多くの人の認識だろう。
そんな中で近年「清湯豚骨」、言い換えれば「濁っていない豚骨」というジャンルが静かなブームとなっている。県内では春日市の「天広軒」、飯塚市の「来来」、宮若市の「来々軒」あたりか。福岡市では「豚そば 月や」を取り上げたい。
店は2010年、福岡市博多区で始まった。とはいえ最初から清湯豚骨を出していたわけではない。店名は「支那そば月や」。福岡であえて醤油ベースのスープに縮れ麺で勝負した。非豚骨が受け入れられ始めた時期とも重なり、店屋町(現在の本店)、博多デイトス、小倉などと店舗拡大を続けた。そして18年、清湯豚骨専門の別ブランド「豚そば 月や 中洲店」を開いた。
「クリアでありつつ、コクを出すのに苦労しました」。そう語るのはオーナーの茂木啓右さん(49)。豚骨のみにこだわり、丁寧にあく抜きをするなど試作に数年を要した。夜のみの営業だったが、「〆の一杯」としても評判は上々。昨年末には大名進出を果たした。
その大名店店主、久保徹さん(33)の経歴がおもしろい。聞けば元々は寿司屋で働いた職人。その後、寿司も出す居酒屋「博多Tetsuji」に勤務し、まかないで作ったつけ麺が好評でランチメニュー化する。さらにそのつけ麺を出すために専門店「つけ麺Tetsuji」をオープン。それに伴って本格的にラーメンの世界に飛び込み、18年に「月や」に転職している。
大名店の店主、久保徹さん
早速一杯を作ってもらった。ネギ、カボスが別皿で配膳され、チャーシューのみが載ったスープは透明感が強調される。まずは一口。見た目は鶏ガラ塩ラーメンのようだが、風味は豚。コンソメのようにあっさりとしつつ、豚骨のだしもじんわり感じられる。「見た目と食べたときのギャップを意識した」(茂木さん)というのもうなずけた。途中でカボスを投入して味の変化を楽しめるのもいい。
「罪悪感が少ないから女性、年配の方にも人気です」と久保さん。夜の中洲と縁遠かった人たちの需要を満たすなど新たな客層を取り込み、3月には東京・広尾への出店も決まっている。
清湯豚骨は、乳化しないよう沸騰させずにじっくりと煮ることでできあがる。さまざまな店が出てきつつあるが、清湯ゆえに繊細で味わいが異なるのも面白い。その作り方のようにブームもじんわりと長く続きそうだ。
文・写真小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社くらし文化部。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。