ダイエーホークスの某左腕の実家は農業を営んでいました。おそらく入団時に「牛も飼っていました。乳搾りを手伝っていました」なんて思い出でも披露したのでしょう。プロ野球選手名鑑。その投手の「趣味・特技」の欄には「乳搾り」と記されていました。中堅となり、エース格となってからも、ず~っと。
2月はプロ野球界にとってお正月。頂点を目指して春季キャンプのスタートです。どの球団も陣容がほぼ固まり、これに合わせて選手名鑑がスポーツ紙に掲載され、書店にも並びます。
この選手名鑑、かつて個人情報なんて概念のなかった時代には、監督や選手の自宅住所が載っていたのはよく知られた話。1990年頃には住所こそ消えましたが、奥さんや子供さんの氏名や年齢は残っていました。愛車の車種もです。それも「ベンツ600SEL」だのと細かく。
こうした家族構成や愛車は1年のうちに変わってしまう可能性があります。そこで名鑑の発行が近づくと、各球団の担当記者たちは変化がないか確認します。一方で趣味や特技が、そうそう変わるものでもありません。しかもほとんどが読書、音楽鑑賞、ゴルフ。そんなわけで、これまで記されてきたものを〝踏襲〟するのが通例です。なおかつ「面白いものは残しておきたい」という記者たちのスケベ根性も加わります。
ホークスでは、ベテランのO内野手の欄に「子守」とありました。お子さんたちはすでに思春期だというのに。他球団から移籍してきたU投手は「読書(岩波文庫)」。でも、遠征のお供に2冊の少年漫画誌を欠かさず、移動の最中にむさぼるように読んでいました。
もっとも、珍妙な趣味や特技を記されていようと、ご当人は気にしない様子。とがめられるような事はなかったのですが…。
西武ライオンズを担当していた2000年頃の出来事です。ある会見の最後、普段から取材にあまりフレンドリーではないS内野手が「こっちからも言いたいことがあるんスけどぉ」と報道陣をにらみ渡しました。われわれの仕事に何か不服でもあるのか―。ピリリとした緊張感が走る中、相変わらずのぶっきらぼうな口調でこう続けました。
「あのぉ、選手名鑑の俺の趣味が釣りになってるんスけどぉ、今は熱帯魚を飼ってるんでぇ、あれぇ、変えてもらいたいんスけどぉ。釣りだと嫌なんスよねぇ」
釣りから熱帯魚飼育へ。年を重ねて生き物の命の尊さを知ったのか。それとも持って生まれた心根か。いずれにしても無愛想なオーラの陰で実は優しい男なのかも、と感じさせられた〝こだわりの抗議〟でした。

西日本スポーツが創刊した1955年に掲載したプロ野球選手名鑑
※西鉄ライオンズ研究会・秋山康幸さんのコレクションから

西日本スポーツで掲載した1960~70年代のプロ野球選手名鑑
※西鉄ライオンズ研究会・秋山康幸さんのコレクションから

文 富永博嗣
西日本新聞社で30数年間、スポーツ報道に携わる。ホークスなどプロ野球球団のほか様々な競技を取材。今年3月に定年を迎え、現在は脳活新聞編集長。