西武ライオンズのプレスルーム。「トミナガーッ!てめえ書きやがったなーっ!」。血相を変えた球場長さんが、私の名前を叫びながら怒鳴り込んできました。
西武ドームの屋根にカラスが穴をあけて雨漏りしている―なんて、われながら実にくだらない記事が逆鱗(げきりん)に触れたのです。「ねえねえ知ってる? ○○が外野を守っていると背中に雨しずくが落ちてきたって。みんなカラスの仕業だって言ってるよ」。某ベテラン投手が耳打ちしてくれた選手間の与太話が元ネタでした。
もちろん、分厚いフッ素樹脂の膜でできた屋根に、くちばしで穴が開くわけがないのは分かっています。でも笑える話だし、何よりネタ不足。そこで球場長さんに「この話、記事にしても?」とぶつけると、あきれ顔で「そんなことあるわけねえだろが。バカか、おまえは。勝手に書け」と返ってきたのです。それが一転、鬼の形相。「ホントに書くか、このバカがっ!」と真っ赤になりながら、ウ~ッとうめいていました。
今年3月に日本ハムの新庄剛志監督が、この球場(現在の名称はベルーナドーム)について発言しました。「屋根だけあって夏めちゃくちゃ暑くて、冬めちゃくちゃ寒くて、遠い」。遠さについては置いといて、おっしゃることは確かです。
他のドーム球場のような〝室内〟ではありません。元々は丘陵を掘って造ったすり鉢状の屋外球場。そこに巨大なテントを取り付けたような構造で、スタンドと屋根の間のむき出し空間から外気が入ってきます。おかげで春秋は寒く、夏場は湿気がこもってサウナ状態。たまに雨が降り込んで、ドームなのにスタンドに傘の花が開く珍光景も見られます。
とくに夏場の厳しさには選手たちもぶつくさ。他チーム以上にスタミナを削られ、勝負の秋口にはヘトヘトになるのです。「雨漏り疑惑」の冗談話には、そんな本拠地への不満がにじんでいたようにも感じます。ちなみに屋根がなかった20年間にリーグ優勝13回、日本一8回。ドームになってからの26年間はリーグ優勝5回に日本一2回です。

完成間もない西武ドームで特別ルールを確認する
ホークスの王監督(右)=1999年3月
さて、冗談を記事にしたのは20年ほど前のこと。今や当時の暑さとは比べものになりません。昨季から複数の選手が熱中症になるなど、もはや命にも関わりかねない問題です。その対策に球団は今夏、ミスト噴射や屋根上から大量の水を流す大型装置を導入しましたが…。まさに「命の水」か。

文 富永博嗣
西日本新聞社で30数年間、スポーツ報道に携わる。ホークスなどプロ野球球団のほか様々な競技を取材。2023年3月に定年を迎え、現在は脳活新聞編集長。