撮影:門嶋淳矢
「二月花形歌舞伎」は伝説の“乱歩歌舞伎”
江戸川乱歩生誕130年にあたる2024年、伝説の作品が博多座二月公演「二月花形歌舞伎」で上演されます。演目は「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」。江戸川乱歩の小説「人間豹(にんげんひょう)」を原作にした作品で、混沌とした幕末の江戸を舞台に、“人間豹”と呼ばれる半人半獣の殺人鬼・恩田乱学と、名探偵・明智小五郎の対決が描かれています。
今回、明智小五郎役は、本作の生みの親で初演時に恩田を演じた松本幸四郎さん。恩田役には以前から本作への参加を熱望し、博多座初出演となる市川染五郎さんです。
15年憧れた作品で博多座初出演
「江戸宵闇妖鉤爪」は、松本幸四郎さん(当時染五郎)の発案から10年程の歳月をかけて2008年に歌舞伎化し、松本白鸚さん(当時幸四郎)が九代琴松の名で演出を手がけました。早替りや宙乗りなど歌舞伎特有の演出をふんだんに盛り込みながら、乱歩の世界観を見事に描いた斬新な舞台は、大きな反響を呼びました。
当時3歳だった染五郎さんは国立劇場でその公演を見ていたそうです。
「幼少のころの記憶はあまりないのですが、父の演じた恩田が最後に宙乗りで飛んでいくのを2階席で見ていたのを覚えています。“人間豹”のインパクトが大きくて、家で真似をして遊んでいました」
この体験がきっかけで染五郎さん自身も江戸川乱歩作品のファンになり、小学校に上がってからは学校の図書館で片っ端から借りて読んだそうです。
幼き頃に見た歌舞伎の「人間豹」の世界は「まるで自分の夢の中の憧れの世界」と染五郎さんは言います。
「それを自分が再現できるなんて、しかもこんなに早く演じさせていただけるなんて、まだ現実的に捉えられていないくらい本当に嬉しいです」
18歳の若き情熱を歌舞伎にのせて
以前恩田役を演じた父・幸四郎さんとの共演となりますが、家では互いにアイデアを伝えあっているそうです。
「15年間憧れてきた作品なので、明確にここはこうしたい、こうしたら面白いかもしれないというアイデアは自分の中で蓄積しています。祖父が演出した前回の『人間豹』も大好きですし素晴らしいので、それは大切にしながら、新しく取り入れるものは取り入れてブラッシュアップしていきたいです」
時代を超えて父子の共演で新たに生まれ変わる伝説の乱歩歌舞伎に、期待が高まります。
一方、同時に上演される「鵜の殿様」は“鵜飼い”を題材にした、ユーモアたっぷりの楽しい舞踊劇。太郎冠者を幸四郎さん、大名を染五郎さんが勤め、父子の息の合った掛け合いが見どころです。
「江戸宵闇妖鉤爪」と「鵜の殿様」の2つの演目は、ダークとコミカルという対照的とも言える作品。歌舞伎の多様な魅力と共に、振り幅のある役に若き染五郎さんが挑む、その演じ分けにも注目です。