認定補聴器技能者となって35年が経つ西元さん。補聴器が多くの人の手に届くようにと、会社や業界を越え、広く働きかける。
眼鏡ほど馴染みのない補聴器は、気になっても購入まで至らないという人も多いのではないだろうか。今回は、補聴器の製造・販売を行う九州リオンの西元克茂さんにお話を伺った。
「補聴器は、ただつければ良いというものではなく、その人に合った補聴器にするための調整やトレーニングが必要です。眼鏡であれば見えるかどうかは新聞などを読めば分かりますが、補聴器の場合、今まで聞こえなかった音が聞こえるようになると、難聴で眠っていた脳がうるさいと感じてしまい効果の判断が難しいのです」。眠った脳を起こすには補聴器の音量を徐々に上げていく必要があり、この調整が補聴器と上手く付き合っていく鍵を握るのだ。厳しい条件のもと基準以上の知識や技能を持って補聴器を調整する技能者を認定補聴器技能者という。「私がその資格を取得したのは、この業界で働く中でもっと知識を蓄えないと顧客満足に適うことができないと感じたから。その人が持つ聞こえの力を最大限に発揮するのが技能者の役割だと思いますが、人の数はまだまだ足りないのが現状です」と話す西元さんは日本補聴器販売店協会の副理事長も務める。
九州リオンが運営する認定補聴器専門店・リオネットセンター博多の明るい店内。
「補聴器は高いものを売れば良いわけでもありません。補聴器を十分に知る人が供給していない問題もあり、今はもっと多くの人が技能者となれるように地ならしをしている段階です。補聴器を知れば知るほど法律や倫理、聴覚生理、音響学など多岐に渡る知識が必要な職業だと実感します」。
勉強することはまだ多くあり、日々課題が見つかると言う西元さんだが、休日は自ら愛犬のトリミングをしたり、幼児用ママごとのキッチンセットを作ったりと器用な一面も見せる。「細かい作業をする点においては、昔営業の傍ら顕微鏡を使って補聴器の修理をするのが好きでしたね」と、懐かしげに話す。
大切にしていることは、“人とのつながり”。「現場でバリバリやっていた頃は目の前のお客様を幸せにしようとする思いだけでしたが、年齢を重ね視野が広がると、生活に寄り添った補聴器の普及には業界を越え、医療機関の先生方や行政の人たちと一体となって問題を解決していかなければと思います」。
現在60歳の西元さん。仕事への課題を挙げると、まだ次から次へと溢れてくる。その姿は仕事に誇りを持ち、補聴器で社会に貢献したいとする、活気に満ちた姿だった。
尊敬する人は宮大工という西元さん。キッチンセットは100円ショップなどで材料を揃え制作。