「麺也オールウェイズ」
長崎市万屋町5-22
午前11時〜午後10時 水曜定休
レモンとんこつらーめん900円
「長崎ってラーメン屋あるの?」
麺也オールウェイズ代表の高木隆太郎さん(43)=長崎県出身=は時折そんな言葉を投げかけられる。当たり前だが、ラーメン屋がないわけはない。しかし、そういう印象を持たれるのは理解できるという。
なぜなら長崎は圧倒的なチャンポン文化圏。それゆえ、ラーメンの存在感が薄くなってしまうのだ。「特に家族連れでラーメン屋には行かない。どうしても中華とかになっちゃう。〝ラーメン文化〟がないんですよ」と、高木さんは言う。
「文化をつくるのは大変。ちゃんぽんはやっぱりすごいです」と高木隆太郎さん
地元のことを客観視できるのは、福岡・久留米で学生生活を送った経験が大きい。初めて食べた久留米ラーメンには驚いた。呼び戻し製法を使う独特の熟成臭は長崎にはなかった。「最初はくさくてダメ。でもすぐに慣れました」と振り返る。
バイトもラーメン屋を選んだ。勤務先は、博多一風堂で学んだ梶原龍太さんが平成11年に始めた「龍の家」。ここは呼び戻しではなく、取り切りスープ。久留米らしさこそなかったが、梶原さんの人柄、そしてラーメン屋としてのあり方にほれた。
「店舗がきれい。接客にもこだわるので、家族で行きやすい。長崎に持って帰りたいと思ったんです」
「30歳までに独立」を掲げて、大学卒業後はそのまま就職した。新店の立ち上げ、既存店の建て直しに関わり、本店の店長も経験。がむしゃらに働いた。
長崎市で創業したのは、30歳の誕生日を翌日に控えた平成21年9月18日。「福岡から来たラーメン」として滑り出しから順調だった。ただ、名をあげたのは、あるオリジナルラーメンがきっかけという。
その一杯をお願いした。スープ、麺を入れるまでは普通のラーメンと変わらない。そこに「意外に合うんです」とレモンスライスを載せる。ネギ、胡椒を振れば、「レモンとんこつらーめん」の出来上がりである。
一口すすると、「意外」という言葉が分かった。うま味が酸味で抑えられてしまいそうな気がしていたが、実際はそうでもないからだ。土台の豚骨のコク深さは酸味に負けていない。それでいて、さっぱり感が増し、キレもよかった。
「どこどこ出身と呼ばれるのが嫌。オリジナルがほしかったんです」と高木さん。さまざまな素材を試す中、ヒントになったのは「おふくろの味」だった。炒めた豚肉にネギ、胡椒をかけ、最後にレモンをしぼる。母親の手料理を思い出しながら、オリジナルの一杯を考案した。
基本の豚骨も変化させている。創業時は取り切りのスープだったが、今は一部呼び戻しの手法も使う。昨年は熟成臭を強めたラーメンを出した。でも、受けはいまいち。お客さんは久留米に行ったばかりの高木さんと同じ心持ちだったのかもしれない。「いずれは再挑戦します」とあきらめてはいない。
創業から14年。長崎のラーメン事情は変わりつつある。同世代による新店は増えた。自身の店も長崎市、近郊で計4店舗に拡大。郊外店はロードサイドに展開し、家族連れも多くなった。
それでも依然として、この言葉を耳にする。
「長崎ってラーメン屋あるの?」
業界が盛り上がれば、いずれ文化として育っていくと信じる。「現状を覆したいです」。高木さんの言葉は力強かった。
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。「のぼろ編集部」編集長。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。「CROSS FM URBAN DUSK」内で月1回ラーメンと音楽を語っている。ツイッターは@figment2K