「ラーメンショップ 山香店」
大分県杵築市山香町大字向野2184−2
9:30~20:00(月、木は19時、火は15時、日は17時まで) 水曜定休
ネギラーメン850円、岩のりラーメン850円
大分県杵築市山香町の国道10号を通っていると、大きな看板が目に入ってきた。赤地に「ラーメンショップ」という屋号。隣には「うまい」の文字が躍る。直球過ぎる…。九州ではあまりお目にかかることはないが、「ラーメンショップ(通称・ラーショ)」は関東を中心にしたフランチャイズチェーンで、郊外、ロードサイドではよく見かける光景だ。
「駐車場が大きいのでトラックの運転手さんがメインです」。そう話すのはラーショ山香店の店長、岩井繁人さん(38)。午前9時半の開店時刻になると、続々と客が入ってきた。ネギチャーシュー、ネギ味噌、岩のりラーメン―。さまざまなオーダーが飛び交う中でさっそく注文した。ネギラーメンください!
岩井さんは、大きめの丼に元ダレ、豚骨スープを注ぐ。同時にトッピングを準備する。白髪ネギにごま油、辛み調味料を混ぜて、粉末を振りかけた。「これは『クマノテ』って言うんですよ。本部から仕入れています」
大きめの丼にスープを注ぐ岩井繁人さん
ラーショの運営元は「椿食堂管理」(東京都)という会社だ。1960年代に創業したらしい。九州では大分と宮崎に計3軒のみだが、全国に300以上のチェーン店を持つらしい。なぜ「らしい」なのかといえば、同社は一切の取材NGで知られている。実際に問い合わせたものの(丁寧に)断られてしまった。
山香店は約35年前に三重野隆さんが始めた。トラック運転手で関東などを回っていた三重野さんはラーショにはまり、九州にはほとんど存在しないことを知る。商機とみてフランチャイジーとなってこの地に店を構えたのだ。
すぐにファンがついたが、十数年で三重野さんは手首の腱鞘炎になってしまう。次は、ネギを納入していた網中悠二さんが引き継いだ。しかし、コロナ以降は人手不足が深刻化。そこで、網中さんのいとこにあたる岩井さんの出番となる。20代の頃に1年ほどアルバイトとして働いた経験がある岩井さんが今年6月から店長に就任。休業がちだった店を立て直すことになった。
「週8で来てくれる人もいる。人気がないわけではないからもったいないと思ったんです」。そう話す岩井さんから手渡された一杯をすすった。しょうゆがかった豚骨スープは塩味がありつつ、あっさりマイルド。途中、シャキシャキのネギをスープに浸すとスープがちょっと色気をまとう。中太麺、チャーシューとの絡みもいい。
ラーショは、家系ラーメンの元祖「吉村家」創業者が働いていた経緯もあり、家系のルーツといわれる。鶏油、ほうれん草、わかめの有無など違いもあるが、確かに土台は似ている。その一つが味変アイテムだ。山香店でも卓上に辛味噌、にんにくが置かれ、みんなが自由に味変を楽しんでいた。
チェーン店としてもラーショは緩い。フランチャイズ料はなく、代わりに元ダレや味噌などを本部から仕入れているのだという。メニューも統一されていない。山香店独自の「かぼすつけ麺」があれば、大分名物の唐揚げも出している。
「どこでも同じ味」がチェーン店の基本のはず。でも、ここは違う。食べ手も、つくり手も自由。だから人を惹きつける。
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社出版担当デスク。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。「CROSS FM URBAN DUSK」内で月1回ラーメンと音楽を語っている。
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