「駅前ラーメン ビッグワン」
佐賀市駅前中央1-13-16
午前11時~午後10時 日曜定休(祝日の場合は月曜休み)
玉子入りラーメン640円
JR佐賀駅北口を出て、右に曲がる。行く手に目立った看板は見えないが、豚骨のにおいが漂ってきた。においの元をたどっていくと店がある。駅からちょうど60歩。入り口には「佐賀ラーメン」と書かれた幟(のぼり)が立っていた。店の名は「駅前ラーメンビッグワン」である。
「おやじが王貞治さんの大ファンだったので」。カウンター席に囲まれた厨房で、2代目の野田光基さん(52)は名の由来を教えてくれた。
創業は昭和58年。もともと駅前の別の場所で父親の晃さんがゲームセンターを営んでいた。ところが近くに新しい建物ができるのを知り、「商売敵が入ると困る」と場所を抑えた。当時、北口界隈には飲食店が少なかった。そんなこともあって、はじめたのがラーメン店だった。
店頭に掲げた幟の通り、その頃からずっと佐賀の味にこだわっている。昔ながらの製法でスープをつくり、今では使われることが少なくなった平ざるで麺上げをする。佐賀ラーメンらしく、替え玉はない。
さっそく一杯を注文した。あっさりではあるが、豚骨だしがしっかりと感じられる。その優しい味わいを塩味が支え、柔目の麺との相性も良い。そしてこれも佐賀では定番の生卵のトッピング。途中まで崩さぬように食べ進める。残り3分の1ほどの時点で箸を入れて崩す。味が変わって楽しい。
「いらっしゃいませー」。食べている途中、お客さんが入ってくるたびに声をかけ、水を準備する女性に目が行った。母親の鈴子さん(78)はとにかく働き者だ。手が空いた時を見計らって話しかけると、創業時からの歴史を教えてくれた。
「『辞めて楽すれば』とも言われるけど、
私の体はそがんことできんとですよ」と野田鈴子さん
開業を決めた後、夫の晃さんとともにラーメンを食べ歩いた。「福岡、久留米も行った。でもやっぱり佐賀ラーメンが好き」。佐賀の職人を雇い入れた。その味を受け継ぎ、可能性に満ちた未来を思い描いていた。だが、その矢先に晃さんに病気が見つかり、帰らぬ人となった。
ゲームセンターは手放した。子どもたちを育てながら、ラーメンづくりを学んだ。ただ、職人は言葉で教えてくれるわけではない。「見て盗む」を繰り返した。「ざっとなかよ(楽ではない)。一生懸命覚えた。でもつらいと思ったことは一度もないです」。そう言いながら厨房を見やった。「子どもたちが継いでくれて本当にありがたい。幸せですよ」
光基さんは10代の終わりから厨房に入り、今は弟とともに店を仕切っている。入りたての頃は職人もまだいたという。「こう見えて私は厳しかですよ」と言う鈴子さんからも技を盗んだ。その頃からつくり方は変えていない。ただ、同じつくり方、材料でも味は絶対に変わる。それでも「『変わらないね』と言われるようにしないといけない」と話す。
光基さんはラーメンづくりを「一生修業」と表現する。「どの仕事でも一緒でしょ。朝から晩までやるだけ。勉強を辞めたらそこで終わりですよ」
店名には王さんにちなんでもう一つ意味が込められている。「ナンバーワンになりたい」。光基さんのストイックな姿勢が分かる気がした。
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社出版担当デスク。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。「CROSS FM URBAN DUSK」内で月1回ラーメンと音楽を語っている。
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