ハーモニカで祈りに挑む
大病をして、集中治療室に担ぎこまれたことがある。そこで臨死体験に近い経験をしたので退院してから臨死体験の本を読み漁った。印象に残ったのが「祈り」の話。死線をさまよった人たちが、家族や友人たちが祈る声を聞いたと“帰還”して証言している。私には聞こえなかったが…。
ロシア軍のウクライナ侵攻に際して私にできることと言えば、寄付などを通じて経済的な支援をすることとウクライナの人々に平穏な生活が戻るのを祈ることしかできない。心の中で祈ることも大切だが「そうだ!」と思いついたのが、いつも机の上に置いているブルースハープ(10ホールハーモニカ)を吹きつつ祈ることだ。
中学時代に吉田拓郎や井上陽水らによるフォークソングの洗礼を受け、いまもアコギ(当時はフォークギターと呼んでいた)とブルースハープを持っている。どちらも下手だがブルースハープは愛犬と公園に散歩へ行き、文句も言わず聴いてくれる愛犬を前に演奏している。
正直に言えば、少しだけまともに演奏できるのはビートルズの名曲「ヘイジュード」だけだ。メンバーのジョン・レノンとオノ・ヨーコとの不倫により離婚が決定的となり、精神的に不安定になったジョンの息子ジュリアンを慰めるためにポール・マッカートニーが書いたバラードだ。そのせいか私には応援歌に聞こえる。自分自身が落ち込んだ時も吹きたくなる。いきなり他国(ロシア)の軍隊に進駐され、平穏な生活から奈落の底に突き落とされたウクライナ国民を応援する気持ちを込めてブルースハープを吹き、平和を祈りつつ演奏に挑んでいる。
1968年に旧共産圏だったチェコスロバキアで「プラハの春」と呼ばれる自由化・民主化運動が起きた。ところが、ロシアを中心にしたソビエト連邦が主導したワルシャワ条約機構軍がチェコ全土に軍事介入し、運動をした人々は弾圧された。その時、プロテストソングとして歌われたのがチェコ語の「ヘイジュード」。チェコの人気女性歌手だったマルタ・クビショヴァーがカバーした。ソ連からロシアに国名は変わったが暴挙は同じ。ヘイジュードに込める思いと祈りは20世紀から21世紀になろうと変化はない。
文・写真 岡ちゃん