漢方薬(特にエキス製剤)を処方する医師が最近は増えており、いまや日本の内科医の7割が漢方薬を処方しているとされています。
漢方薬と西洋薬の大きな違いは、西洋薬は複合剤もありますが基本的に純粋な単一の物質でできており、特定の細胞や臓器に直接働きかけて作用します。一方、漢方薬は数種類の植物、動物、鉱物など自然界にある生薬を混ぜ主に煎じ、多成分の物質でできており、体のさまざまな場所に作用します。一般に漢方薬はゆっくり効くと言われますが、疾患によっては非常に早く(服用した瞬間)効くものもあります。
私は、大学の医局に属している時は西洋医学のみで診療をしていましたが、開業してがんや難病などの重篤ではない風邪などの普通の患者さんを診療した時、診断はできてもうまく治療できないことが何度もあり漢方薬を勉強するようになりました。現在、世界中で蔓延している新型コロナウイルス感染症も初期の段階では漢方薬が有用ではないかと考えます。
漢方医学は、現在の西洋医学的な検査技術がない状態で長い間、治療手段として有効であることで受け継がれてきました。約二千年前の『傷寒論』というウイルスや細菌感染により発熱する病気の治療について書かれた本の中では、同じ病気にかかっても状態や経過により症状が変化していくので、その都度漢方薬の処方を変えることが書かれています。漢方医学はさまざまな考え方や流派があり、それを学ぶことも多岐にわたり面白い分野でもあります。
以前、西洋薬で長い間咳が止まらないと悩んでいた患者さんに漢方薬を処方したところ、スーッと咳が治まったことがあり、そんな時は漢方薬を処方してよかったと思える瞬間でもあります。漢方薬の処方を求める患者さんには女性が多いのも特徴です。自然の生薬から作られる漢方薬は体に優しく、女性特有の体の冷えや生理痛、更年期障害などに悩む人たちに注目されています。また高齢者の食欲不振、疲労倦怠感、腰痛などの体の痛みにも有効な漢方薬が多数あります。
漢方を処方するには患者さんのお話をしっかり聞くことが大切です。「なんとなく体調が悪い」と複雑かつ多岐にわたる自覚症状があるものの、検査をしても異常が見つからず西洋医学的には治療できないような「不定愁訴」には漢方薬が役立つことがあります。
最後に薬を飲むことも大切ですが、日頃の養生が大切です。その中に「医食同源」という言葉もあります。江戸時代の儒学者貝原益軒は『養生訓』の中で、腹八分目の大切さを説いています。「少食こそ健康維持の秘訣」です。
担当医
鶴内科医院
院長 鶴 博生先生
協力:福岡市医師会