「ヤキニク・ラーメン フタバ」
福岡市中央区警固1-14-3
12:00~14:00、18:00~25:00 不定休
◎ラーメン700円
不思議な縁というものはどこにでもある。私生活でも、仕事でも、それらをまたぐつながりも。『ヤキニク・ラーメンフタバ』の誕生秘話を聞くとそんなことを考えてしまう。
警固四角の近く、奥行き2mもない独特な建物にのれんを掲げる。この場所、40~60歳の方なら「サムシング」跡のほうが分かるだろうか。革ジャンからスニーカーまでそろえた洋服屋がかつてあった。
「内壁を剥がしていくとサムシングの壁が出てきたんですよ」。フタバの店主、栄浩司さん(47)は感慨深く語る。というのは高校、浪人時代によく通った思い出の場所だったからだ。1年半前に店を構える際に偶然の再会をし、入居を決めた。
作る一杯も見た目から独特である。まずチャーシューが分厚い。周りにキクラゲ、ワカメ、ざく切り玉ねぎが大胆に載る。豚骨と野菜でとったスープのグッとくる旨味もいいが、柔目に茹でられた中太麺がさらにいい。「これ、イレブンフーズのラーメンの僕なりの再現なんですよ」。
約20年前、栄さんは東京・品川でそのイレブンフーズを偶然見つけた。もともとは港湾労働者向けだろうか、昭和49年に創業した知る人ぞ知る店だ。朝から営み、味はブレブレだが、はまるとすごかった。キクラゲを洗濯機で洗ったり、おつりは自分でザルからとるシステムだったり。雰囲気も含めた「唯一無二感」に惹かれ、通うようになった。
ラーメンを生業にしたのもひょんなことから。大学進学のために上京。23歳で結婚し、平成9年に妻の実家がある千葉県山武市で焼肉店を開いた。ところが数年後に狂牛病騒ぎで苦境に。そこで学生時代に博多ラーメン店『なんでんかんでん』でバイトをした経験を生かして、近くで『まるえいラーメン』を開業した。本格豚骨と評判を呼び、今は焼肉も食べられる店として人気を集める。
次なる夢は福岡進出だった。「やるならこっちにないものを」とイレブンフーズの再現を思い立った。品川の店は既に閉店していたが、創業者から習ったことがある職人を探し出し、教えを請うた。醤油は関東から、創業店と同じ酒井製麺の麺を仕入れ、器も同じにするこだわりようだ。
イレブンフーズは福岡でいうと『元祖長浜屋』のようなものだろうか。ソウルフード的な味わいゆえ、ほかの地域で受け入れられづらくもある。ただそこは焼肉に救われた。伊万里牛をリーズナブルな価格で提供する焼肉は好調だという。〆でラーメンを食べる客も多く、着実にファンを増やしている。
「世界一好きな場所で世界一好きなラーメンを作れて幸せ」。栄さんはそう語る。偶然の積み重なりでこの場所にこの一杯がある。同時に、偶然であるはずなのに必然も感じてしまう。これこそが縁なのだろう。
細長い店内で作業する栄浩司さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「川上政行 朝からしゃべりずき!」内コーナーで毎月第1月曜にラーメンを語っている。