「拉麺 空海」
11:00~14:50 18:00~22:45(休み前日は21:45) 月曜定休
◎白は590円、緑は690円、他5色は640円。写真は茶
「白と黒がツートップ。黄は1度食べるとやみつきに…」。福岡県那珂川市の県道沿いに店を構える「拉麺空海」では初めての客にそんな説明をする。言葉のみを聞くと「何のことやら」だけれども、ラーメンの紹介である。他に赤があり、茶があり、青、緑まで続く。同店は7色のラーメンで人気を博している。
店主の柴田佳幸さん(43)によると、使うスープは豚骨のみで炊いた1種類。それでも7色に変化する秘密は厨房にあった。
普通、ラーメンは丼に元だれを入れ、スープを注ぐ。白はそのように作るが、赤は唐辛子の粉とラードを混ぜ入れ、その後スープを注ぐ。黒はマー油で、赤と黒を合わせたのが茶。黄はカレースパイス、青は煮干し粉末を混ぜる。緑は変化球で、野菜を山盛りにする。
まずは青を頂いた。駆け抜けていく煮干しの風味を豚骨が支え、小気味よく踊る細麺とスープがよく絡む。赤、茶も味わった。どれも豚骨が負けていないのがいい。「豚骨でいろんなものを作って、常識を覆したいんですよ」と柴田さんは言う。
福岡県粕屋町出身。高校卒業後、北九州市のホテルの中華料理店に就職した。「30歳までに独立」との思いで働き、系列のファミレスも経験した。ラーメンへの転身は24歳。福岡・二日市の「暖暮(だんぼ)」を経営していた義理の伯父から声を掛けられた。味も気に入ったが、それだけではない。レストランでは一品提供するのに10分はかかるのに対しラーメンは数分。そのスピード感が新鮮だった。加えて食材が無駄になるロス率も低い。商売としてラーメンの面白さに気付いた。
このころ暖暮はテレビの企画「九州ラーメン総選挙」で1位となるなど人気を集め多店舗化を進めていた。「本当に大きくなる。自分でもできるのでは」。そんな思いが日に日に大きくなっていった。
空海のオープンは平成16年。目標より2年早く独立した。初期は今でいう白、黒、赤のみだったため、食べ歩きを重ねて研究した。「60キロだった体重が100キロになった」甲斐もあってか、開店5年後には今の7色が揃った。
同じころ、雑餉隈駅前に支店を出している。そこで週1回創作ラーメンを作り、ラーメン職人としての腕を磨いた。ただ、本店に目が届かなくなり、支店を2年で閉じる「失敗」も経験した。今は店舗展開を全く考えていないという。
柴田さんの名刺には「豚骨大将」と書かれている。「豚骨は炊き方で味も変わる。いろんな可能性がある」。魚介、鶏など、様々な素材はあれどベースはあくまで豚骨である。
目指すのは拡大でなく、深化なのだろう。丼の中でまた違った色を表現してくれるに違いない。
豚骨にこだわる柴田佳幸さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。KBCラジオ「小林徹夫のアサデス。ラジオ」内コーナーで毎月1回ラーメンを語っている。