「絵を描きたい」心を動かした一凛の花
「27年前位になりますかね」
絵を描き始めたきっかけを尋ねると、片岡鶴太郎さんはそう口火を切った。
「ある冬の寒い日に出掛けようとしたら、気配を感じましてね、振り返ったら赤い椿の花が咲いているんですよ。寒くて、誰も見ていないのに健気に咲いている。初めて花と会話が出来た感覚でした。この感動を表現できる人になれたら、なんて素敵だろう、なんて豊かな人生になるだろうと。それがきっかけです」
絵の経験はなかったものの、独学で描き始めて1年。鶴太郎さんの絵が百貨店美術部の目に留まる。
「個展をやらないかと言われました。僕みたいなのが出来るのかとも思ったのですが、1年後に40歳の記念として個展を開こうと。そのためには100枚必要と言うのですよ。とにかく3日に1枚を描くことを決めまして、大変でしたね。でも夢中になって描き続けることで、自分の絵と深く向き合うことができました」
その後も60歳を迎えるまで、年100枚描き続けたという鶴太郎さん。
「最低でも10年は自分の中のものを掘り起こす作業を続けたかったんです。続けるうちに自分なりの描き方や自分だけの技術、表現したいものがわかるようになってきました。10年を超えてもやり続けたのは、描いても描いても描き尽くせないものがあって。芸事も芸術も一生勉強ということで、その時々で発見があり、今度はこんなものを描きたいという思いも出てくるものですから。これでいい、というのはないですね」
新しい世界での発見。裸で学ぶ喜びを感じて
鶴太郎さんの半生を振り返ると絵だけでなく、芸能活動、ボクシング、ヨガと様々なものに挑戦してきた姿がある。これから挑戦したいことは?
「料理ですかね。今も自分が食べる物はほとんど自分で作っていますが、基礎からちゃんとやってみようと。器も自分で作って、料理としつらえる。そういうことを遊びでやりたいですね」
年齢を重ねてもチャレンジする姿勢を失わない鶴太郎さん。ぐらんざ世代へのアドバイスを伺った。
「何かに挑戦することが、だんだん億劫になってくると思います。でも、やってみたいことは積極的にやっていった方がいい。そこから広がりが出てきますしね。この年から経験がないことを始めることに躊躇いを覚える方もいるかもしれません。でも、新しいことをやるということは当然みんな素人です。そこから始まるということが何よりなんです。素人だからこそ、学べること。今までの世界とは全く違うところで発見がある。そういうことを知る喜びを感じてもらいたいです。自分より若い人に指導してもらうことも大いにあると思いますが、素直に意見を聞いて、従う。裸で学び、感じ取っていくことが大事なんじゃないですかね」
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki