北欧での活動の集約となる名手達の共演に心躍らされる
1950年代からトランペットとヴォーカリストとしても名声を博したチェット・ベイカーは、マイルス・デイヴィスを凌ぐ程の存在であった。しかし彼は多くのアーティストが経験した麻薬によるトラブルの影響で非常に大きな犠牲を被ることになる。
再起を図った人生の後半は、欧州に拠点を移した。同様に、彼より早く米国を離れ、デンマークで活動するデューク・ジョーダンと共に初共演を果たしたのが本作である。
スティープルチェイス・レコードのニルス・ウィンターの計らいでデューク・ジョーダン・トリオに客演する形で録音される。それぞれが独自の世界観を持つ個性的アーティストであるが、本作はすべてジョーダンの曲で構成され、冒頭の彼の代表曲「危険な関係」から、ベイカーのソフトでリリカルなトランペットと、それを包み込むようなジョーダンの端正なフレーズで他の録音に見られない豊かな表現に圧倒される。二人の繊細で抒情的な魅力を引き出した結果である。ベース、ドラムの好演も光っている。その後、オランダのホテルで転落死する不可解なベイカーの最期を考えると切ない思いに胸が痛むのだ。
本品は現在CD化され、THINK!RECORDからSteeple Chaseレーベルの作品群とともに発売されている。
発売元:ディスクユニオン THINK!RECORDS
相川 潔
元広告会社社員・長崎市生まれ熊本市在住。
ジャズ、ロック、ソウルなどのレコードを追い求めて数十年。名盤、奇盤多数。
レコードは盤、ジャケット、再生機を含めて楽しむべき芸術だと思います。