1月に古稀を迎え、運転免許証の更新時期と重なって手続きをした。70歳以上は更新前に自動車教習所で高齢者講習を受けねばならない、という。
案内ハガキに記載してあった一覧をもとに、自宅近くの教習所に予約電話を入れると、「今からだと2月末ですね」と係の女性。「エッ!それだと免許が切れてしまうんだけど…」とびっくり仰天。
「案内を受け取ったらすぐ予約しないとダメですよ。とにかく受ける人がハンパじゃないんですからね」と最後は“タメ口”風にお説教を喰らってしまった。
仕方なく、別の教習所に電話を入れると、こちらも状況は同じで、次第に焦り始めた。次々に電話を掛けまくった挙句、車で1時間も掛かる教習所(最初から5番目)にようやく滑り込めた。
さて講習日。教習所に行ってまたびっくり仰天。受け付けには長―い列。並んでいるのは、禿げ頭および白髪頭ばかり。ある意味、壮観だったね。予想はしていたものの、ここまでとは…。聞けば、一日平均百人近いシニアが講習にやってくるそうな。
で、肝心の講習だが、まず双方向型講義30分、運転適性検査(動体視力、夜間視力、水平視野)30分。これは問題なしでパス。続いて実車による指導。3人一組で乗り込んだ。私が一番手で、別の2人は後部座席。助手席には噺家のような愉快な口調の指導員。
ハンドルを握ってエンジンを掛けたとき、ふと既視感にとらわれた。私が免許を取得したのが実はちょうど50年前。あのときも仮免許の後、今日と同じように3人一組で実車し、一般道路を緊張して走った。そのことが、昨日のことのように蘇ったのである。
後ろのジイ様2人も初めてという実車講習に興奮気味にはしゃいでいる。私と同じく運転免許を取った昔を思い出しているのだろうか。
そういえば、教習所に通っていた頃、街にはスパイダーズの堺正章と井上順が歌う「あの時君は若かった」が流れていた。あれからはや50年。多すぎて困った長髪は無残な枯れススキへ変わり果てた。
一口に50年というが、しかし、それは海あり山あり、かつ地味な一日一日のリアルな暮らしの積み重ねでもあった。ともあれ、ここまで歩いてこれたのだ。
教習所からの帰路、私はバックミラーの後方に流れてゆく景色の中に、50年の歳月をしかと見つめていた。
(ジャーナリスト。元西日本新聞記者)
馬場周一郎=文
text:Shuichiro Baba
幸尾螢水=イラスト
illustration:Keisui Koo