玉三郎さんが贈る、越路吹雪40回忌公演
シャンソンの女王、越路吹雪。惜しまれながら世を去った彼女の歌が、40年の時を超えて、博多で蘇る―!
3月の博多座公演『越路吹雪40回忌コンサート~アプレ・トワ』では、越路さんの後輩である宝塚歌劇団のOGや現役生とともに、坂東玉三郎さんが特別ゲストとして越路さんのレパートリー曲を歌い上げる。
坂東玉三郎さんと言えば、言わずと知れた歌舞伎界の至宝。博多座をはじめとした九州各地の舞台でも出演を重ね、熱心なファンも多い。歌舞伎という枠を超えて活躍しているが、歌のイメージはあまりない。
「歌うようになったのは、50歳くらいからです」と玉三郎さん。
「最初は舞台でのセリフのために、発声練習をしていました。そうしたら、歌った方が声帯がより良くなる感じがしまして、歌い始めました。それと、3年前に行われた越路さん37回忌のコンサートに出演のお誘いをいただいたことが大きなきっかけです」
越路さんの事務所から是非に、という声が上がった玉三郎さん。越路さんの生前には、コンサートや舞台に何度となく足を運んだ熱心なファンであったそう。その魅力とは?
「ドラマチックな歌、と言えばよろしいのでしょうか。宝塚を若いときにお辞めになり、あとはミュージカルやお芝居をやってこられたのですね。そういうこともあり、歌がドラマになっているということが魅力だったと思います。僕が初めて越路さんの舞台を観たのも、40歳くらいのときに出演されたミュージカルの『王様と私』でした」
たしかに越路さんの歌を聴くと、不思議と歌詞がドラマのセリフのように心の中に入ってくる。加えて、表情をクルクルと変えながら歌い上げる様は、玉三郎さんの言葉通り女優ならではのもの。だからこそ、初めて聞いた曲でも胸に響き、感情を揺さぶられる。今回の40回忌のコンサートで玉三郎さんは、そんな越路さんの歌い方を踏襲して歌われるのだろうか。
「意識はしていないのですけど、僕は役者ですから。セリフのように歌うしかないのです。そういう意味では、越路さんが歌に込める思いに似ているのかもしれません」
まだ知られていない名曲を歌いたい
越路さんのレパートリー曲と言えば、『愛の賛歌』や『ラストダンスを私に』『サン・トワ・マミー』などが思い浮かぶが、今回のコンサートではどんな歌を聴くことが出来るのだろうか。
「どういった曲が当時のお客様を楽しませて、ということをご披露する場になるかと思います。宝塚出身の方々がヒット曲を歌われると思うので、僕はなるべく皆様が聴いたことがない曲を歌おうと思っています。やはり僕は越路さんを直接存じ上げている世代で、そして長い間観てきました。1回か2回しかリサイタルで歌っていなくて、CDにもなっていない曲とか、録音さえされていない曲もあります。今回はそんな曲を歌いたいです。例えば『白い夜』。あまり知られていない曲ですが、シャルル・デュモンというフランスの作曲家が越路さんに贈られた曲に、越路さんのマネージャーであり作詞家でもあられた岩谷時子さんが作詞なさった曲です。シャンソンというと馴染みがないと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、シャンソンとはフランスではジャンルではなく、“歌”ということなのです。人生から沸き上がった歌がシャンソンなのだと思います。大変いい歌詞がついている歌ばかりですので、お客様にも歌の魅力がよく伝わると思います」
越路さんに学ぶ、舞台にかける姿勢
舞台での表現以外でも玉三郎さんは、越路さんの影響を受けているのだそう。
「越路さんは東京の日生劇場を一ヶ月もの間、一人で満員にされた方。歌を主にしたショーで、そんなにも長い間満員になることは当時でも珍しいこと。素晴らしいエンターテナーだったと思います。そういう方が舞台の前後に、どういう生活をしていたのかということを見習ってきました。開演時間に合わせて、自分の朝からのプログラムがあったりとか、終演後にどういう風に身体を休めていたのかということを教えてもらいました。舞台人としての心構えというのでしょうか。大変デリケートな方でもあったので、そういうことを十分にやってらしたようです。そのことを伺って、僕も真似していったという感じですね」
当代一の役者である玉三郎さん。後進達が追うその背中もまた、先進たちの姿を見つめ創られてきたもの。素晴らしい舞台にするためには、どうすれば良いのか。芸を磨くだけでなく、私生活の時間さえも精進させていく。そうやって幕を開ける、プロフェッショナルな舞台。それを観ることができる観客は幸せ者だ。
最後に博多座での公演に向けてメッセージを頂いた。
「博多座で歌うのは初めてです。歌を通して、夢のような世界を創れたらと思います。ぐらんざ読者の方々にとっては、越路さんの歌は懐かしいと思われる方も多いのではないでしょうか。越路さんは九州はあまり回られていないと思うので、生でご覧になった方は少ないかもしれません。当時観ることが出来なかったという方にも、是非今回のコンサートに足を運んでいただきたいですね」
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki