夜は万華鏡21・遺された体、遺していく体

夜は万華鏡21・遺された体、遺していく体


遺された体、遺していく体

東日本大震災直後の岩手県釜石市。市の民生委員で葬儀社での勤務経験のある相葉常夫(西田敏行)は、遺体安置所を訪れ、ナンバーで呼ばれ無残に扱われる犠牲者に言葉を失う。

「この方たちは死体ではなく、ご遺体なんです!」。相葉の叫びに、疲労困憊の極限状態にありながら、だれもが我に返る…。映画「遺体~明日への十日間」での印象的なシーンである。

「遺体は話しかけられると人としての尊厳を取り戻すんです」。遺族に優しい言葉をかけ、遺体に語りかけ、心を込めて丁重に扱おうとする相葉。

膨大な遺体に当初は戸惑っていた市職員たちも、やがて相葉の言葉に耳を傾け、一刻でも早く、一人でも多く遺族のもとに帰してあげたいと奮闘する。

東日本大震災から四年。死者は一万五千八百人余、行方不明者はなお二千五百人を超える。

宮城県女川町の高松康雄さん(58)は行方不明の妻を捜すため、昨年二月、潜水士の国家資格を取得した。

妻祐子さん=不明当時(47)=は行員ら十二人が死亡・行方不明になった七十七銀行女川支店に勤めていた。支店屋上に避難し、津波にのまれた。

宮城海上保安部の潜水士らによる捜索活動を見守るうち、「人任せではなく自分で海に潜って捜したい」と考えるようになった。

潜水士は海中での捜索活動などに従事できる。プロのダイバーらに協力してもらいながら、高松さんは妻の姿を捜し求めて女川の海に潜る。

「津波にのまれる直前に妻から届いた最後のメールには『帰りたい』とあった」と高松さん。「何としても捜し出し、家に連れて帰ってあげたい」と決意している。(河北新報の記事より)

「死体ではなく遺体」。相葉のこの叫びを私も胸の中で反芻した。

遺体の元々の意味は、親が「遺してくれた体」、つまり子供のこと=自分自身の体を指していた。
それが、現在では死体を敬う言葉として使われるようになったという。

自分の体は前の世から「遺された体」であり、それは死によって後の世に「遺していく体」でもある。ここには、いのちは連続するという日本人独特の生命観がうかがえる。遺体は単なるモノなどでは決してなく、永遠のときを貫く生命体と言えるのである。

二千五百人余の長すぎる旅が一日も早く終わり、家族の手に抱きかかえられる、その日の訪れを心から願う。
(ジャーナリスト。元西日本新聞記者)



馬場周一郎=文
幸尾螢水=イラスト

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