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ハットをかざして 第70話

ハットをかざして 第70話

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


黒い喪服の女神

学生の頃、好みの唄と云えば、ひばりの「悲しい酒」、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」、藤圭子の「夢は夜ひらく」、北原ミレイの「ざんげの値打ちもない」。そこに淺川マキが加わった。

神田共立講堂の時、淺川はスタッフ紹介で、「ピアノ、シダラコウジ」と叫んだ。シダラコウジ、シダラコウジ、あの設楽幸嗣かと驚く。

彼は子役の大スターだった。学校から先生引率で観に行った「黄色いからす」(五所平之助監督)では復員してきた父・伊藤雄之助に懐かない子供を。名監督小津安二郎さんの「お早よう」では、テレビを買ってくれと無言の抵抗を父・笠智衆に行う不貞た長男役を。彼のおかげで小学校時代に「チェッ」と云う舌打ちを覚えた。「冒険王」や「少年ブック」などの表紙を鮮やかなスマイルと白い歯で飾っていた。

他のバックも凄いメンバーで、うろ覚えだが、ギターに坂本龍一、まだ芸大の学生と紹介されていた。ドラムにつのだ☆ひろが居た。

共立講堂の中は超のつく満員で、学生、やさぐれ、労働者が押しかけており、みな一触即発のアナーキーさを漂わせていた。汗臭く人間臭く山の飯場を髣髴させる。ヘルメットの連中、ゲートル、腹巻、タオル鉢巻、始まる前から館内は勢いづき、どこかで酒盛りをやっているのか、ジンや日本酒の匂いが流れてくる。

黒づくめの女神が舞台中央に現れると、館内の野卑野蛮さは掻き消え、水を打ったように鎮まった。「よく来たわねぇ」と、か細いちりめん声がマイクから流れる。ウォーッと云う蛮声と、雷鳴のような拍手が鳴り止まない。

「夜が明けたら」から、入る。
「ふしあわせという名の猫」
「淋しさには名前がない」
と三曲静かなバラードが続く。

四曲目のドンカマが入る。
館内に「待ってました!」の蛮声がとどろく。みんな総立ちである。顔が嬉々としている。座ってられるかい。東京に出て来た田舎者ばかりが、体の奥底に潜んでいる淋しさを空中に噴出させる。
「ちっちゃな時から」である。

♪ちっちゃな時から 浮気な お前でいつもはらはらする おいらはピエロさ(作詩・淺川マキ)

失恋をしたむさい男たちが館内で涙ぐんでいる。拍手とブラボーが止まない。こんなに一曲、一曲の間の拍手の長い歌手を知らない。彼女は黒い喪服を着た団塊世代の女神だった。「山河ありき」で終わる。

アンコールの声が鳴り止まない。

再び強いドンカマが鳴り響く。また総立ちである。私はここぞと目立たぬように中央の通路を歩いて舞台に近寄り、縄で三角形に縊られた一升瓶3本をマイクの前に置いた。歌の終わりに、大拍手にまぎれて私は彼女に柏手をうち深々と拝んだ。ツワイスコールが鳴り響く。

再び女神は現れた。ラストは「かもめ」である。みんな胸に真っ赤な薔薇の贈り物を頂いて、夜の街に散った。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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