本サイトはプロモーションが含まれています。

ハットをかざして 第96話

ハットをかざして 第96話

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


黒い下着

講座を終え、ボブ嬢からお茶に誘われた。
コピー演習のお礼だと云う。銀座四丁目まで歩き、路地の奥のシックな喫茶店に入った。明治時代を思わせる威厳のある珈琲専門店だった。
話題をと考え、映画の話をした。
「ウエスト・サイドもいいけど、同じナタリー・ウッドなら、断然『草原の輝き』がいい。ハイスクール時代の恋が、いろいろな行き違いから実らず、ウォーレン・ビィーティに裏切られたと思っているナタリー。ウォーレンは誤解を解かぬまま、ニューヨークの大学へ行く。ナタリーは精神を病み、郊外の病院に入る。ウォーレンの父は事業に失敗し自殺、彼は大学を辞め、故郷に戻り農業に挑む。ナタリーは病院で同じ心の病の男性から求婚され、彼と生きて行くことを決めるんだ。退院しいったん故郷に戻ったナタリー、ウォーレンも戻っていると聞き、彼の農場を訪ねる。彼は喜び、家族に会ってくれと、妻と幼い長男を紹介する。じきにもう一人生まれるんだと云う。二人は会って心に決着をつける。最後の晴れ晴れとした別れ方がいい。青春はうまくいかない、だけど生きる力はまた草原の輝きのように漲ってくるんだ」
「観たい」「どこかの名画座でまた掛かるだろう」、他にはと云うので、「卒業」の話をする。
「あれは変形のシンデレラ・ストーリー。主役が背も低くダスティン・ホフマンだから成立している。もしあれがウォーレン・ビィーティなら嫌味な映画になってる。びっくりしたのは、『奇跡の人』でサリバン先生を演じたアン・バンクロフトが黒い下着姿で扇情的な女を演じていた。ちょっと僕にはショックだった」
ボブ嬢は今日のお礼はコーヒー一杯では足りないから、こんどの日曜日に食事をご馳走したいと云う。別に予定もなく、断る理由もない。
日曜日の夕刻7時に、吉祥寺駅北口で会う。レストラン「バンビ」まで歩く。ガラス越しに往来から見える席に案内された。赤を飲むか、白にするかと云うので、赤を頼んだ。東京のお嬢さんはワインを飲むのかと感心する。
「ダスティンでまだ他にいい映画はあるの?」
とボブが訊く。
「『真夜中のカーボーイ』がいい。ダスティンとジョン・ボイトの田舎者二人がニューヨークで一旗揚げようと足掻く。僕のこの東京と同じだ。所詮、足掻いても足掻いても堕ちていくだけだ。ダスティンの負け犬さがいい。もう病いで命は幾ばくも無い。彼はフロリダへ行きたいと願う。ボイトはゲイの売春をしながら金を作り、フロリダ行のバスに乗る。ダスティンは太陽輝くフロリダを夢見ながら、バスの中で息を引取る。九州の田舎者にはたまらない映画だった。」
食事も終わり、ボブからもう一軒行かないと誘われたが、飲みなれないワインが胃袋を苦しめていた。気持もダスティンになっており、丁寧に断った。北口まで何か気まずい空気の中を送って行った。改札口を入ったところでボブは振り返った。
「今日は、黒い下着で来たのよ」
と小声で言い捨てると、サッと踵を返した。
以来彼女はもうクボセンには来なかった。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

関連するキーワード


ハットをかざして

最新の投稿


[2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったり!もらって嬉しいおすすめギフト12選

[2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったり!もらって嬉しいおすすめギフト12選

引越しの段取りの中で忘れてはいけない、引越し先のご近所さんへのご挨拶。より快適な新生活を送るためには、ご近所さんとの良好な関係は不可欠です。「これからよろしくお願いします」という想いを込めて、気の利いた粗品で新生活を始めましょう![2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったりのおすすめギフト12選をご紹介します。


[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方&おすすめ商品15選|お菓子・フルーツ・飲み物・など

[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方&おすすめ商品15選|お菓子・フルーツ・飲み物・など

大切な友人・知人、会社の先輩・同僚・部下が入院したと聞けば心配でお見舞いに駆け付けたいもの。そんな時に喜ばれるお見舞い品を、バリエーション豊かにご紹介!事前に相手の体調の状態やシチュエーションをリサーチし、ふさわしい手土産を準備しましょう。[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方とおすすめ商品15選をお届けします。


女性への2万円のプレゼントおすすめ13選【アクセサリーから家電まで】多彩に紹介!

女性への2万円のプレゼントおすすめ13選【アクセサリーから家電まで】多彩に紹介!

ステキな女性に贈りたい!予算2万円で購入できる、上質かつ高級感あふれるおすすめ商品をご紹介します。2万円という決して安くない予算をかけるプレゼントは、相手が心から喜んでくれる品を選びたいもの。女性へのプレゼント選びは相手の好みやライフスタイルに大きく左右されるため、簡単なことではありません。ここでは、アクセサリーやファッションアイテム・家電・日用品など女性向けのおすすめアイテムを多様なジャンルからご紹介します。人気ブランドの商品や日本製の高品質な商品を厳選したので、プレゼント選びの参考にしてくださいね。


予算5万円で贈る女性へのプレゼント11選!ブランドは何を選ぶ?海外・日本のブランドをご紹介

予算5万円で贈る女性へのプレゼント11選!ブランドは何を選ぶ?海外・日本のブランドをご紹介

5万円という予算をかけて女性へプレゼントを贈る時には、相手の好みにあわせた上質な商品を選びたいと思うもの。ただ価格が高ければいいというわけではないため、商品を選ぶのに迷ってしまうこともあるでしょう。ここでは、定番の海外ハイブランドの人気商品や、メイドインジャパンの上質さにこだわったブランド商品をご紹介します。海外ハイブランド・日本ブランド、どちらもそれぞれに魅力を持っていますが、プレゼントを贈る女性の好みにより合うものを選べば、きっと記憶に残る特別なギフトになりますよ。


[2024年版]50代の女性に贈るプレゼントにおすすめのコスメ12選|美容液やクリームなど喜ばれる品を厳選紹介

[2024年版]50代の女性に贈るプレゼントにおすすめのコスメ12選|美容液やクリームなど喜ばれる品を厳選紹介

50代の女性に贈るプレゼントにおすすめのコスメを12選ご紹介します。コスメはすでに気に入っているブランドやアイテムがある場合が多く、選ぶ際に悩む人も多いでしょう。本記事では、プレゼントしやすいクリームや口紅などを中心に50代女性にマッチするアイテムを厳選しました。50代の女性に贈るコスメの選び方についてもお伝えするので参考にしてくださいね。


発行元:株式会社西日本新聞社 ※西日本新聞社の企業情報はこちら