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長谷川法世のはかた宣言68・年始水掛けの儀

長谷川法世のはかた宣言68・年始水掛けの儀


『博多津要録※1』という文献があってね、略して「要録」は、博多代表の年行司※2が町奉行とやり取りした書類集なんだ。94年分を選別して全28巻にまとめてある(1巻目は欠本)。江戸前期94年間の博多を知るためにはこれが一番だね。

年行司・原田伊右衛門の自分のための控えだろうから、撰録の条件は以下の三つ。
①古い触れでも有効なものは保存。
②繰り返された騒ぎでも、代表的で編さん当時必要なものだけ残していると考えられる。
③町奉行(藩)に届いていないこと、つまり公になっていないことは文書になっていないだろう。
で、要録の貞亨4年(1687)の記録には、追い山のきっかけになった笹水・桶ぶせの一件※3がないんだねえ。山笠が走るきっかけとなった重大事件なのに、先に示した3つの条件によって記録されていないのだろう。

前回の勉強で、博多の笹水・桶ぶせが、全国的風習である若者組の「婿いじめ」につながることを知ったね。そんなら笹水・桶ぶせは貞亨4年以外にもあったはず。要録翻刻本※4の目録(目次。多分1819項目)をたどってみたら、ずうっと下って72年後、宝暦9年(1759)正月朔日の一件だけがあった(見落とし御免)。

「年始水掛けの儀、稠敷仰せ付けられ候事」

年始水掛けの儀とはただ事ではない。笹水・桶ぶせも正月だった。翻刻本第3巻434頁から現代意訳してみる(誤訳御免)。

〈年始水掛けの儀は、年内に厳しく仰せ付けられたのに、了簡違いの者があると聞く。早々に再度、申し付けるよう奉行から申し渡された。年始水掛け停止の儀があったので、内緒で樽代などのやりとりをしないように。《今日惣代儀助・幸吉・弥六・又吉津中へ年寄り方へ差し出シ、重畳※5申談させ候》※6なおまた、若者中よりも念書・印を取り、近日中に年番所※7へ提出すること〉

「年始水掛け」は固有名詞のようなので、繰り返されていたんじゃないかな。それにしても、正月朔日、元日から町奉行がわざわざ年行司へ通達し、それを年行司が博多中にばたばたと通達して若者全員にハンコをつかせるなんてのは異例じゃん。だいたい、奉行の通達を町人の若者が無視しようとするなんてアリなのか。お奉行様はでんと構えていて、禁を犯す者はさくさく裁くものと思っていたら、頼むから騒ぎをおこさんでくれと、半ば懇願しているような印象だ。

どんたくのルーツ博多松囃子は、明治以前は1月15日※8のお祭りだった。もし、年始水掛けが実行され、奉行が違反者を罰したら、当該若者が全員、祭りに参加不能になる。いや、年始水掛けの儀は津中の若者全員の風習でもあるから、マックスで考えれば、博多の全若者が松囃子をボイコットするかもしれない。もしかすると、若者共は意図的に松囃子を脅しの種にして水掛けをやっているのかも。にしても年始水掛けの儀に関する後続記事は見当たらない。二度出された触れは守られたのだろうか。

実は、年始ではないが、婚礼時の騒ぎで入牢者の出た事件があった。次号につづく。

※1)博多津要録…年行司を37年勤めた原田伊右衛門の撰録。寛文6年(1666)~宝暦9年(1759)。櫛田神社蔵。福岡県文化財

※2)年行司…1年交替の博多の町役人。町人に禁止の絹物着用が許され、藩主への年始・松原出も許された。松原出は箱崎松原での藩主の参勤交代送迎のこと。ちなみに福岡の町役人は月行事。

※3)笹水・桶ぶせの一件…『櫛田社鑑』で「小堀古記」から引用した記事。新婿に嫁の町の若者たちが笹水を祝い桶ぶせをして婿の町の者と喧嘩になった。その年の山笠が追いつ追われつとなり追い山が始まった。

※4)翻刻本…題名は同じ『博多津要録』。校註者代表秀村選三。(財)西日本文化協会。全3巻総1712頁。目録(目次)は多分1819項目。

※5)重畳…ちょうじょう。幾重にも重なること(罪科―)。この上なく満足。ここでは、「重ねて」合議させたの意だろう。

※6)《…》内は難解なので翻刻のまま。ナンカイナ?

※7)年番所…年行司の役場。年行司の人数が減らされ住まいを役場としたあとも、年番所の名称は続けた(『石城異聞』より)

※8)1月15日…小正月。1年で最初の満月の日。

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