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長谷川法世のはかた宣言71・街道を読む

長谷川法世のはかた宣言71・街道を読む


人の名前やなんかの読み方を、清音・濁音で関西・関東にわけるのがマイブームになってしまった。

博多の中島町はもちろん中シマ町で、いわしめんたいを発案した香椎の中島商店も中シマ。上川端商店街に山崎酒店があって、山サキ。しかし、中島※1も山崎※2も辞書を引いてみると、中ジマ・山ザキと濁音化※3したものが圧倒的におおいのでいやになる。

表題「街道を読む」というのは、司馬遼太郎さんの「街道をゆく」のまねだけど、ここでは「街道」をどう読むかということだ。「ガイドウ※4」が多いかな?ところがいつもの電子辞書でガイドウをひいたって、うんともすんとも反応はありゃしないんだ。

博多弁では「唐津ガイドウ・朝倉ガイドウ」と発音するとおもうがどうだろう。電子辞書には唐津街道・朝倉街道ともに項目自体がない。辞書にでるのは長崎街道だけで、それも清音「長崎カイドウ」しかでてこない。

本棚をながめたら唐津街道・長崎街道の関係本を3冊、積ン読していた。パラパラめくってみると、『長崎街道1』(図書出版のぶ工房)の序文※5に、「街道」の読み方についての記事があった。筆者の稲富裕和氏は長崎出身。長崎街道を長崎ガイドウと発音する人が多いが、辞書ではカイドウでなければ街道はでないと、これはまたまったく同じようなことが書かれている。そして、古地図・古文書には「海道」と表記したものが多い、ということだ。

「カイドウ」を電子複数辞書でひくと「海道」が先で「街道」があとにでる。しつこいが、ガイドウではなんの項目もでてこない。いろいろ読みすすむと、「全訳古語辞典」の説明のおしまいに、「参考」というのがあった。

かい-だう…街道は東海道にならって海道の字をあてていたが、山中の道に合わないので、街道の字をあてるようになった。

はあ、そうなんだあ。もうすこし知りたいと思って、「新明解語源辞典」を買った。あった。

かいどう…室町末期から「海道・街道」の2表記がみられる。…諺草※6「今俗に陸路を海道と云ふはあしし。街道といはんが然らん」(陸路を海道というのは悪い。街道が良い)

なるほど、そういういきさつで海道の海の字に、街※7を当て字にしたのか。それなら街道をカイドウと清音で読むのがわかる。

疑問は、清音好み※8のはずの博多あたりでガイドウと濁音になっていることだ。謎はつきない。念のため大きく重い「字通」を開いた。見なきゃよかった。なんと、街道の読みに「ガイドウ」があるではないか。しかも、ガイドウが先で、カイドウがあとに記してあるじゃーん!今回はもういいや!

そもそもは、カイドウイチの次郎長親分って、「海道一」か「街道一」か、っていう疑問が出発点だったんだけどね。

※1)中島…辞典で中シマは京都の人中島雅楽之都(なかしまうたしと)のみ。中ジマは50余り。

※2)山崎…ヤマサキは兵庫の地名と土佐出身山崎直方(やまさきなおまさ)の6項目。ただし山ザキ直方でも2件ある。本欄担当編集者も福岡生まれの新婚ヤマサキ女史。ヤマザキは50件以上。秀吉と光秀の山崎の戦いは京都なのに辞書にヤマザキしかない。博多生まれの木彫家・山崎朝雲も『博多郷土史辞典』でヤマサキなのに辞典ではヤマザキ。歌手山崎まさよしは、滋賀県草津→山口県防府市出身だがヤマザキ。近代以降は人の移動が自由となって文化的背景がわかりにくい。

※3)濁音化…福田アジオ『番と衆』8ページに本来清音で発音する単語や漢字が他の単語や漢字と複合したとき濁音になることを濁音化という、と書かれている。だが、電子辞書に濁音化の項目はない。同義の説明としては濁音の項目中に、連濁・連声濁・新濁がある(ブリタニカ/マイペディア)

※4)ガイドウ…司馬遼太郎の「街道をゆく」があるので、街道だけなら「カイドウ」と読む人も多いだろう。

※5)序文…「異文化の情報路長崎街道―海道と街道」

※6)諺草…貝原益軒の甥・貝原好古(1664—1700)の著。好古は益軒の著作を手伝ったり、和璽雅(わじが)・日本歳時記など多くの書を編纂した。37歳没

※7)街…学研『漢和大辞典』には、「街」呉:ケ。漢:カイ。慣:ガイ。常用音訓ガイ「街路・市街」。カイ「街道」まち「街・街角」。街道の読みはカイドウ・ガイドウ(ここもあった!)の順

※8)清音好み…角のうどん屋をカロノウロンヤとよむのにな。方言をしっかり勉強しなくては。

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