ようやく夜だけは涼しくなってきた。あの猛烈な暑さが朝から深夜まで続いていた時期は、散歩さえ命懸けだった。それが10月に入り、夜は少しだけ安心して歩けるようになった。
散歩といっても、ただ歩くだけではない。以前にもこの欄に書いたが恥ずかしがり屋なので、人の顔が分かりにくくなる夜だけは、ついでにゴミ拾いも続けている。そんなとき、どこかの政党や政治家に肩入れせずとも「日本はいい国だ」と感じる瞬間がある。年齢に関係なく「ありがとうございます」「ご苦労さまです」と声をかけられる時だ。
先日も、わざわざ女性が追いかけてきて、自販機で買ったばかりの冷たい麦茶のペットボトルを差し出してくれた。「ありがたくて涙が出そうになりました。私の気持ちです」と言葉を添えて… こちらの方こそ涙ぐみそうになる出来事だった。
以前も書いたが、ゴミには世相が映る。煙草の吸い殻や空き缶、ペットボトルが定番だが、最近はファストフードやコンビニ商品の食べ残しが目立つ。この原稿を書いている今は、自民党総裁選で高市早苗氏が選ばれ、株価は上がり続けているが落ちているゴミからは景気の良さを全く感じない。むしろ生活の苦しさの方がにじんでいるようでもある。
散歩する道路沿いに並ぶ飲食店や、自転車で行き交う若者たちにアジア系の人たちが多いことにも気づく。ふと、30年以上前に観た崔洋一監督の映画『月はどっちに出ている』を思い出した。在日コリアンや外国人労働者をめぐる「多文化共生」をコメディータッチで描いていたが、扱っていたテーマは今もなお私たちに重くのしかかっている。
そんなことを考えていて、思わず「月はどっちに出ている」と独り言をもらしてしまった。隣を歩いていたカミさんが「東の方向よ! きれいなお月様ね」と笑いながら返してきた。そうだった。その日は偶然にも「中秋の名月」の晩だった。今年の月はひときわ大きく感じた。
ゴミを拾う私や、励ましの声をかけてくれる人々への天からのご褒美だったのだろう。勝手にそう解釈して写真に収めた。なにはともあれ、こうして無事に日々散歩できていることに感謝、感謝だった。
文・写真 岡ちゃん
ぐらんざ世代の代弁者としてnoteなどで発信。
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