ポタリングをしてきました
近場ばかり散歩していると、さすがに飽きてくる。どこか遠くへ〝遠征〟したいのだが、シニアにとっては交通費が悩ましい。電車やバスなど公共交通機関を使えばよいのだが、それでは「小旅行」になってしまう。
そんなとき、SNSで情報を探していると、興味深い言葉に出会った。―「ポタリング」。自転車好きの間では一般的らしい。英語の〝putter〟(ぶらぶらする)を語源にした和製英語で、自転車で気ままに散策することを指すという。「ポタ」とも略され、その響きにもどこか〝ゆるさ〟があって良い。
30代の頃、健康診断でメタボの進行を指摘され、自転車に乗り始めた。きっかけは、NHKで観た「ツール・ド・フランス」の特集番組。世界一のレースに心を打たれ「あのロードレーサーとやらに乗るぞ!」と決意し、専門店へ駆け込んだ。高級車も並ぶ中、そこそこのグレードのロードバイクを購入し、走りに熱中していた。
しかし時は流れ、今やそのロードレーサーも部屋の飾り。今回、コラムの取材も兼ねて久々に引っ張り出してみたが…、ダメだった。前傾姿勢のきつさ、スピード感の鋭さ―前期高齢者にとっては、かつて〝相棒〟と思っていたはずが、まるでF1マシンのように思えた。
やむを得ず、通勤用の電動アシスト自転車でポタリングに出かけることに。だが、これが〝怪我の功名〟だった。電動アシストの力で膝や腰への負担は少なく、目的地に着いてからも散歩できる余力が残っているのだ。
そうして私は、自宅から6キロ離れた福岡市中央区の大濠公園へ向かった。陽気に誘われ、子ども連れや愛犬を散歩させる人々の中に混じり、初夏の気配を楽しむことができた。
帰り際、公園で偶然、フルマラソン完走を目指していた頃にトレーニングしてくれたコーチに再会した。彼はいつもの爽やかな笑顔で「健康のために、ちゃんと走ってますか?」と問いかけてきたが、私の電動アシスト自転車を見た瞬間、眉をひそめて言った。
「こんなのに乗ってちゃダメですよっ」
違うんです、いや…違わないか。でもまあ、ポタリングは―爽快だった。

文・写真岡ちゃん
ぐらんざ世代の代弁者としてnoteなどで発信。
ぐらんざはじめ雑誌やさまざまなSNSで、ライターとして活躍中。