デッキシューズにこだわる
以前読んでいた小説「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」が「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」という題になって映画化されていた。このきまぐれ散歩コーナーを始めるにあたって「いつかは巡礼をしてみたい」と考えていたので、書店や図書館で本の背表紙に“巡礼”という文字を見るとつい手にとってしまう。395ページもある長編小説だったが、2014年の本屋大賞(翻訳小説部門)第2位になっただけに一気に読んでしまうほど面白かった。
映画は小説を忠実に脚色していた。いわゆるロードノベル、ロードムービーと呼ばれるジャンルの作品でハリウッド映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」にも似たようなシーンがあった。一方で、シニア世代にとっては身につまされるエピソードも満載だった。ストーリーは小説も映画も見ていない人にネタバレになってはいけないので紹介しないが、主人公が1000キロ近くを歩く物語だ。小説を読んだ時も靴のことが気になっていたが、映画でも主人公が履くデッキシューズが何度もクローズアップされていた。
主人公は思いもよらず歩く旅を始める。ところが、靴は買い物に出かける程度で履くデッキシューズだ。私も靴紐を気にすることなく、サンダル代わりに使えるデッキシューズを愛用している。物語の冒頭、主人公は単に手紙を郵便ポストに投函するつもりで家を出る。ところが、その後長旅を始めることになった主人公のハロルド・フライ氏はゆるいデッキシューズのせいで足のマメや筋肉痛に悩まされる。途中で、親切な人たちから靴を履き替えるよう勧められるが頑としてデッキシューズにこだわり続ける。
私も近所を散歩するが何も持たずTシャツにジーパン、デッキシューズでふらりと出かけることがある。何も持たずブラブラと歩けば歩くほど雑念やいろんな思いがよぎる。まさに小説の題名になっているような巡礼に近い心理状態になる。だからこそ、主人公はデッキシューズを履き続けることで「自分の人生を振り返っているのだ」と勝手に解釈した。
それにしてもと思う。自宅のある福岡市から1000キロ先って…、軽く東京を超えてしまう。そんな先までクレジットカードと財布だけを持って旅に出るなんて。私には無理とデッキシューズを前にしみじみと考えている。
文・写真岡ちゃん
ぐらんざ世代の代弁者としてnoteなどで発信。
代筆屋業も開業しスピーチ原稿などの執筆や情報誌編集長としても奮闘中。