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長谷川法世のはかた宣言93・厩の話

長谷川法世のはかた宣言93・厩の話


博多の馬のついでに、こんどは日本の馬の話、それも厩(うまや)について書いてみよう。

 鎌倉時代の絵巻、『一遍上人絵伝(いっぺんしょうにんえでん)』に、厩の絵が描かれている。厩のまえに猿がつながれているのが特徴だ。猿は魔除けで、それは兼好法師の『徒然草(つれづれぐさ)』にも書かれている。実用的には、ネズミや犬猫の侵入防止だろうと思っている。

 しかしさて、ここは猿ではなく、馬が厩から顔を出している点に注目してみる。それがどうした、厩舎(きゅうしゃ)を映画やドキュメンタリーでみるが、馬は通路に向かって顔をだしている。絵巻と同じだよ、といわれるかもしれない。博多松囃子の三福神に馬を世話する乗馬クラブの方に話を聞くと、馬の頭は通路にむけるという。じゃあ、それが万国共通の習慣だったのかというとそうじゃないんだな。

 1952年の西部劇映画『真昼の決闘※1』には、厩舎でのアクションシーンが二回ある。そのどちらも、馬は板壁をむいて繋がれている。馬の尻のほうが通路になっているんだ。今とは逆なんだ。そりゃあ、何かの間違いじゃないかって?

 トロイの遺跡を発掘したシュリーマンの、『シュリーマン旅行記 清国・日本※2』(1865)に次のような記述がある。

「日本の厩舎では、馬は他の国々とは逆方向に繋がれ、我々の習慣からすれば尻の来るべきところに頭が来る…〈日本では〉危険をおかさずに※3馬の頭に近づくことができる」これは、明治維新の3年前のことなんだ。

 また、明治になって来日した大森貝塚の発見者のモースは、『日本その日その日※4』の「第一章一八七七年の日本/横浜と東京」に、日本では「馬を厩に入れるのに尻から先に入れる」と書いている。

 シュリーマンもモースも、日本人と西洋人がいろんなことを逆にやる※5という一例として書いたもので、ほかには、鉋(かんな)や鋸(のこ)を押さずに引くとか、西洋の本の最終ページが、日本人にとっては第一ページであることなどを記している。

 いま、日本では自動車をバックで駐車する。欧米では頭から停める。それは、乗り物という関連で、馬の停め方の歴史的習慣が車に引き継がれているからだろう(もちろん、駐車スペースの広い狭いもあるだろうが)。けれど、馬に関しては、シュリーマンとモースの記述から推察できるように、馬の頭を通路に向けるという厩への入れ方、つまり、日本の伝統的合理的方式が、明治以降の西洋に広まったのにちがいない。

 これ、大発見かも!

※1)真昼の決闘…監督フレッド・ジンネマン(『地上より永遠に』『わが命尽きるとも』『ジャッカルの日』)。出演ゲイリー・クーパー、グレース・ケリー
※2)シュリーマン旅行記清国・日本…石井和子訳。講談社学術文庫
※3)危険を冒さずに…西部劇ファンのあつまりで、顔に蹄鉄型の傷のある人に聞いた話。
 「自分が悪いんです。自分の馬に蹴られたんです。自分の馬だから油断して、馬の後ろを通ったもんで。馬は後ろが見えないから、急に後ろにいくと防衛本能で後足で蹴るんです」
※4)日本その日その日…青空文庫。底本/東洋文庫
※5)逆にやる…宣教師ルイス・フロイスも、西欧と日本の違いについて細かく記録している。訳書『ヨーロッパ文化と日本文化』(岩波文庫)

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